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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年9月15日  年間第24主日 C年 (緑)
見つけたら、喜んでその羊を担いで、家に帰り…… (ルカ15・5-6より)

良い羊飼い     
石棺彫刻 
ローマ コンセルヴァトーリ宮美術館 3世紀

 キリスト教美術初期、ローマで造られた石棺彫刻の良い羊飼いである。一匹の羊を肩に担ぐ羊飼いの姿に、人間の魂を死後においても永遠に導いてくださる主キリストを眺めていたとされる。足元には二匹の羊がいる。さらに羊が多くいるという羊の群れのしるしである。こうして、ここには、一匹の羊(一人の人の魂)を大事に保護する主キリストの姿がクローズアップされているとともに、その羊たちの群れである教会、すなわち神の民のイメージが込められているといえる。
 ふつう良い羊飼いのテーマというと、復活節第4主日に毎年読まれるヨハネ福音書10章のイエスの説教が思い浮かぶ。父である神、またはイエス自身が羊飼いに譬えられて、羊の群れへの永遠の導きを約束するところである。しかし,きょうの福音朗読箇所であるルカ福音書15章1-10節(または1-32節)はやや違う文脈である。そこでは、感情豊かな羊飼いの姿が浮かんでくる。見失った一匹の羊を助け出すまで捜し回り、その羊を見つけて家に帰ったとき、家の者に一緒に喜べというのである。
 このエピソードは、悔い改める人の罪人を喜んで神は迎えてくださるという主題のもとに語られている。しかし、譬えの中では、一匹の羊が自ら悔い改めているわけではない。むしろ、必死でその一匹を捜し求め、見つけると大喜びをするというように、羊飼い自身が心を揺らし、感情をむき出しにしている。悔い改めるという主題が、我々人間に悔い改めなくてはならないと戒めるような教えとして展開されているわけではなくて、むしろ、どんな一匹も、すなわち、どのような一人の人間さえ、神は放っておかれない、見捨てない--そんな神を知ることが大事だといわれている。
 そのような福音の受けとめ方を示唆してくれるのが第1朗読箇所である。ここは、出エジプト記32章7-11、13-14節。エジプトから導き出された民が堕落し、主である神を忘れて、若い雄牛の鋳造を造り、それにひれ伏していけにえをささげていたというところに、神は、罰として民を滅ぼそうとされた。しかしそこで、モーセが主自身に、民を救おうとしたかつての約束を思い出させる。すると、「主は御自身の民にくだす、と告げられた災いを思い直された」(14節)のである。ここも、神の思い直し、いってみれば、神の側の回心が触れられている。
 神が謹厳で恐い神なので、人はただ自分を改めて悔いるだけだと教えられているわけではない。きょうの福音と旧約の箇所が示すのは、神が生き生きと感情をもち、思いさえ変える方であることをまざまざと示している。そのような神であることが、なによりも人の回心を引き起こすのである。人間が自分の意志で、悔い改めることなどできず、つねにそこには神からの働き、呼びかけ、恵みが作用している。神ご自身が心を動かす方であるからこそ、人も心を変えられる、神に向き合えるという、神と人の関係性の不可思議さが根本的な主題なのではないだろうか。われわれがミサで出会うのも、神の民の祈りの気持ちや熱意に生き生きとして対応してくれる、情の豊かな神,人情味あふれる神である。そのような神、そしてキリストの姿を初期の教会の人々は生き生きと感じていたのであろう。羊飼いは、すでにギリシア・ローマ美術の中でも、普遍的な人間愛、人類愛の象徴と考えられていたこともあったようである。その意味合いは、若くてもたくましい、この作品の羊飼いのうちにも感じられる。この姿に第2 朗読の1テモテ書のことばも重ね合わせてみよう。
 「わたしが憐れみを受けたのは、キリスト・イエスがまずそのわたしに限りない忍耐をお示しになり、わたしがこの方を信じて永遠の命を得ようとしている人々の手本となるためでした。永遠の王、不滅で目に見えない唯一の神に、誉れと栄光が世々限りなくありますように。アーメン」

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

 年間第二十二主日
 高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる
 物語全体の主人公はイエスであり、そのイエスが行い、語るが、宴会の賑やかで生き生きした雰囲気も伝わってくる。それは安息日のことだったとあるので、この日に宴会が行われたのかと疑問視する人もいるが、安息日と宴会は矛盾するものではない。料理は前日に準備しておけばよかった。
和田幹男 著『主日の聖書を読む―典礼暦に沿って【C年】』「年間第二十二主日」本文より

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