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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2015年12月25日   主の降誕(日中のミサ) (白)
言(ことば)は肉となって、わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た(ヨハネ1・14より)


主の降誕
  テンペラ画
  チェコ プラハ国立美術館 14世紀後半

   

 東方教会のイコンにおける降誕図の流れをもつ絵画であるが、東西教会共通に伝統となっていた図像構成に対して、13-14 世紀を経て描き方に変化が訪れていることが感じられる作例である。
 最も目立つ特徴は、母マリアが幼子イエスを旨に抱いていて頬をすり寄せるなど、マリアとイエスの密着が表現されていることである。伝統的な降誕図では、イエスは布にくるまれて飼い葉桶の中に寝ており、そこを牛と羊が覗きこむという図柄であった。ここでは、飼い葉桶(籠のように描かれている)が空っぽになっているところを牛とろばが覗き込んでいるのである。このように母マリアと幼子イエスの親密さが美しく強調されているところに、この絵の焦点がある。
 13-14 世紀に発展するこのような描き方の背景には、神学的な理由のある見方、そして信仰のメンタリティーの展開がある。その一つには、イエスの死と復活の出来事と、降誕の出来事を重ね合わせてみる見方である。もとより、イエスの誕生を語るマタイ福音書やルカ福音書、そして、きょうの福音朗読箇所となっているヨハネ福音書1章の「みことばの賛歌」といわれる文章にも、受難に関する言及が認められる。「暗闇は光を理解しなかった」(5節)、「世は言(ことば)を認めなかった」(10節)、「言(ことば)は、自分の民のところへ来たが、民は受け入れなかった」(11節)などである。
 このことも踏まえられて、降誕図において、さまざまなかたちでキリストの死と復活への暗示が込められていく。その一つの例がこの作品に見られる。伝統的にイエスが衣にくるまれて寝ているように描かれてきた飼い葉桶が、上述のように、ここでは空になっていることである。これはイエスの復活のしるしとなった空の墓との関連づけがあるといわれる。イエスはすでに桶から取り上げられて母マリアに抱かれている。その姿はすでに光に満ちている。イエス自身もう赤子ではなく、少し成長してしかも金髪で描かれていることにも、復活のしるしとしての強調があるのだろう。幼子イエスが復活の光に包まれたイエスの体を示すものとして描かれているのである。マリアの胎内からの誕生を、陰府(よみ)からの復活と重ね合わせて考える考え方も、教父の伝統に見られることも参考になろう。
 もう一つ、ここで、マリアがイエスを抱き、慈しんでいる姿には、14世紀の神秘主義思想の中で、イエスの誕生が信者一人ひとりの魂におけるキリストの誕生として考えられていたことが関係しているといわれる。ここにイエスを抱くマリアは、まさしく信者全体、すなわち教会のかたどりという意味を担うようになる。幼子イエスは、高みから支配する方としてではなく、地上における小さな子どもとして、愛すべき方かつ愛されるべき方として到来した。信者すべてはそのイエスを温かく迎え、慈しみ育てるように信仰の道を歩んでいくのだという霊的決心が、ここのマリアに託されて描かれているともいえるのである。『教会憲章』がアンブロシウスの教えを引いて「神の母は、信仰と愛、またキリストとの完全な一致の領域において、教会の典型である」と述べている(63項)ことを参照しつつ、マリアと幼子の姿を味わっていきたい。

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