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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2016年3月6日  四旬節第4主日 C年 (紫)
神はキリストを通してわたしたちを御自分と和解させられた(第二朗読主題句 二コリント5・18より)


キリスト
  テンペラ画
  キプロス アグロス修道院 12世紀末

   

 C年の四旬節第4主日の福音朗読箇所は、いわゆる放蕩息子の譬えである。いなくなっていた息子が父のもとに向かってくると、父は、「食べて祝おう。この息子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったからだ」と行って喜び迎える。この父の姿に、御父である神のいつくしみがあふれていることが感じられる話である。この譬えを主題とした絵もあるが、表紙には、第2朗読の主題句「神は、キリストを通してわたしたちを御自分と和解させられた」(二コリント5・18より)を踏まえて、父である神のいつくしみの愛を体現される方としてのキリストのイコンを掲げた。「いつくしみの特別聖年」にちなんでのことでもあるが、もちろん、福音朗読で物語られる父、そして父である神の「いつくしみのみ顔」であるイエス・キリストを仰ぐためでもある(教皇フランシスコ いつくしみの特別聖年公布の大勅書のタイトル「イエス・キリスト、父のいつくしみのみ顔」参照)。
 このコリントの箇所には「和解」という語が頻繁に登場する。内容的には「ゆるし」ということと同じだとは思うが、「和解」という言葉によって、神とわたしたちの関わり方に焦点があてられることに気づく。それは朗読箇所冒頭(二コリント 5・17)の「キリストと結ばれる人はだれでも、新しく創造された者なのです」に含まれるキリストとわたしたちの結びつきということと関連して展開されている。キリストと結ばれているということを踏まえて、神との和解が語られているのである。
 ところで、「和解」という言葉は人間同士の水平的な相互関係を表すので、神と我々の関係を表現するには不十分だという意見もある。ただ、コリントのこの文脈での用法を見ると、《神がわたしたちを(または「世を」を御自分と和解させた》とか《神と和解させていただく》といった言い方になっていて、あくまで和解を主導するのは神であることが明示されている。その意味で「ゆるし」と同義ともいえるが、「和解」の語を使うことで、自由な意志をもって神との関わりに入る人間のあり方への考慮も含まれているように思う。「ゆるし」だと、人間が罪のままの状態にあって、神のゆるしをひたすら受け身で受けるという側面が際立つが、「和解」だと、神の招きを受け入れ、その導きのもとに、人が自由意志をもって入っていくという主体性が併せて表現されるだろう。「神と和解させていただきなさい」という使徒の呼びかけは、キリスト者の使命を告げていると受けとめることができるのである。
 コリント書で「和解」という言葉に対応する福音の譬えにおけることばは、「(父親は)走り寄って(息子の)首を抱き、接吻し」、祝宴をしようという行為に示されている。ここでの「祝宴」は神の国を意味していよう。このような意味合いをもつ祝宴は、ミサの意味にとっても示唆的である。今、我々がささげているミサも、神の国の完成のあかつきにおける祝宴に向けて、それを待望しつつ行われているものである。
 表紙絵のようなキリストのイコンの顔を通して、御父のいつくしみのみ顔を仰ぐことができるとすれば、その手のしぐさのうちに神の人に対する働きかけのしるしを見ることができる。右手の祝福のしぐさのうちに、譬えでいえば、帰って来た息子を迎え祝った父に示される御父である神を、そして左手に携える本(聖書)のうちに、神のみことば、二コリント書が言う「和解の言葉」(二コリント5・19)を考えてよいだろう。ミサは、ことばの典礼と感謝の典礼によって、たえず神のことばを聞き、祝宴への招きにこたえる信仰を養ってくれるのである。
 ちなみに、きょうの福音の中で、一つ、父の思いを強く表現している一節がある。「(息子が、)まだ遠く離れていたのに、父親息子を見つけて、憐れに思い、走り寄って首を抱き、接吻した」(ルカ15・20)。この文脈は、第4奉献文の「人があなたにそむいて親しい交わりを失ってからも、死の国に見捨てることなく、すべての人があなたを求めて見いだすことができるように、いつくしみの手をさしのべられました」を想起させる。救いの歴史を想起させつつ、神を賛美するこの第4奉献文のうちに、神のいつくしみが味わい深く語られている。この機会にこの奉献文にも注目し、味わうことをお勧めしたい。

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