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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2016年5月1日  復活節第6主日 C年 (白)
聖霊が、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる(福音朗読主題句 ヨハネ14・26より)


水の器と鳩
  モザイク
  ラヴェンナ ガラ・プラキディア 6世紀

   

 ラヴェンナというと、6世紀に制作された各教会堂・その他施設の内壁を飾るモザイクを思い起こす。このモザイクはガラ・プラキディアの名で呼ばれる建物のもの。ガラ・プラキディア(390頃-450) とは、ローマ帝国皇帝テオドシウス1世(大帝)の娘で、最初、西ゴートのアタウルフス王と結婚し、後に西ローマ皇帝コンスタンティウス3世と結婚。この皇帝の死後は、その遺子である後の皇帝ウァレンティニアヌス3世 (在位424-55) の摂政として力を振るった。彼女の奨励のもと425-30年頃に建てられたこの建物は彼女の廟堂と呼ばれるが、実際には埋葬所ではなく、当時ラヴェンナで盛んに崇敬されていた聖ラウレンティウス (殉教258)に献げられた礼拝堂である。
 水の入った器に止まる二羽の鳩が描かれている表紙のモザイクは、動物や事物が模様的に配置された全体画面の一部である。水や鳩のもつ象徴的イメージを考えながらきょうの聖書朗読箇所を黙想したい。
 鳩というと、我々はなによりも聖霊を連想する。イエスの洗礼のとき、神の霊が「鳩のように」降ったと4福音書が共に記していることで、その印象が強く刻まれている(マタイ3・16、マルコ1・10、ルカ3・22、ヨハネ1・32)。しかし、このほかにも鳩は聖書の中で重要な意味を担っている。ノアのときに起こった洪水の話では、その終わりを示す役目(創世記8・10−11)。それは人類に対する罰の終わりと再生の始まりを示すしるしであった。レビ記15章では、清めのための献げ物とするために山鳩か家鳩を二羽提供するという規定が記されている(幼子イエスを神殿にささげにいくことに言及するルカ2・22の前提)。また、鳩は、雅歌では花嫁が「わたしの鳩」と呼ばれる(2・14、5・2参照)。これらから、鳩のイメージとして、清さや純潔の意味もふくらんでいく。イエスが12人の弟子を派遣するマルコ福音書の文脈では「蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい」と言われる(マタイ10・16)。鳩は素直さ、従順さという徳の表象にもなる。
 このようなところから、教父時代の初期に、純潔や従順の象徴として、キリスト自身が鳩のイメージで語られたこともあったという。それよりも一般的になったのはやはり、雅歌で花嫁と譬えられたことも加味されて、教会、すなわち信者やその魂を鳩のイメージで語ることであった。鳩が聖霊の象徴として強調されるようになるのは、ガラ・プラキディアの父であるテオドシウス1世が招集した第1回コンスタンティノポリス公会議以降である。たしかにこの公会議で、三位一体の教理が確認され、父とともに御子と聖霊の神性がはっきりと宣言されるようになったことと関係しているという。
 このモザイクの鳩の場合は、水の器から水を飲むというところにはきっと洗礼の水との関連づけもあるであろう。洗礼の水によって新しい永遠のいのちに生きることになった信者のイメージが、ここでの鳩には託されているのであろう。その信者を満たす聖霊の意味合いももちろん、この鳩に見ることができる。すると、ここでは、器の中の青い水、白い鳩の姿、そして背景の青もすべてが聖霊に関係し、全体として、聖霊の満ちあふれるさまが描かれていることになる。きょうの福音朗読箇所にある「聖霊が、あなたがたにすべてのことを教え、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる」(ヨハネ14・27)というイエスのことばをここで噛みしめたい。信仰に生きる者の命の源、今も聖霊によって生きられることへの願い、そして将来においても信仰をまっとうできるようにとの願いも込められているのだろう。
 ところで、先のことばに続いて、イエスは、「わたしは、平和をあなたがたに残し、わたしの平和を与える」(14・ 26)と告げる。聖霊を受けて活かされることと、たしかにキリストの平和を受けて生きることは結びついていよう。鳩は一般に平和の象徴といわれるが、平和を聖霊と結びつけて考えていくヒント、また神のみ前における純潔や従順といった徳との関係で考えていくヒントもこの鳩の姿のうちに見いだせるかもしれない。

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