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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年1月15日  年間第2主日 A年 (緑)
「“霊”が鳩のように天から降って、この方の上にとどまるのを見た」(ヨハネ1・32より)


イエスの洗礼
  ジョット画
  イタリア パドヴァ スクロヴェーニ礼拝堂 14世紀初め
   

 きょうから年間の主日の聖書朗読になるが、気づかれただろうか、年間第2主日はA年もB年もC年も、ヨハネ福音書からの朗読になる。A年はマタイ、B年はマルコ、C年はルカとそれぞれの福音書の朗読が開始されるのは年間第3主日からである。その年間第2主日、A年はヨハネ1章29−34節。「見よ、世の罪を取り除く神の小羊」(1・29)と洗礼者ヨハネがすでにイエスが救い主であることをそのようにしてあかしする場面である。その中で、自分がイエスに授けた洗礼に言及し、“霊”がとどまったことを見て、神の子であることを見、あかししたことが語られている。主の公現の祭日、主の洗礼の祝日(ことしは公現の翌日の月曜日)で記念される出来事を引き継いで、イエスの洗礼のあとに開始される公生活が、まさしく「世の罪を取り除く神の小羊」として生涯になっていくことが、この年間の始まりの福音として告げられる。
 このことは降誕節(救い主の現れを祝う季節)の趣を引き継いでいる。それは、第1朗読のイザヤ書からも感じられる。「あなたはわたしの僕、イスラエル、あなたによってわたしの輝きは現れる」(イザヤ49・3)とあるというところである。こうして、降誕節と年間主日の始まりはしっかりと結びついている。そして、次の年間第3主日からはマタイ、マルコ、ルカのそれぞれの福音書に沿って、イエスの宣教活動の始まりが読まれ、年間主日を通してそれが展開されていくのである。
 さて、イエスの生涯の意味全体があかしされるこの文脈でも、イエスの洗礼が洗礼者ヨハネをとおして想起されている。そのような想起の図として、ジョットのこの絵を鑑賞してみてもみよいだろう。
 一見して、聖霊の降下が強調されている。天上から御父である神の姿が描かれるとともとに、鳩の姿も描き込まれているのがおぼろげながらわかる。聖霊の降下については、4福音書がともに語っている。その語り方の違いが興味深いので確認してみよう。
 マルコでは、イエスが「水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった」(マルコ1・10)。マタイでは、「そのとき、天がイエスに向かって開いた。イエスは、神の霊が鳩のように御自分の上に降って来るのを御覧になった」(マタイ3・16)とある。どちらもイエスが聖霊の降下を見たとあるが、マタイでは神への言及がある分、この絵の描き方との対応をすんなりと想定できる。開いた天から姿を表している神の姿というところである。ルカでは、簡潔に「イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開け、聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た」(ルカ3・21−22)とある。「イエスが御覧になった」という点に触れられず、しかも祈っているときの出来事として、聖霊の降下は、客観的な事実のように語られつつ、イエスの祈りと不可分な体験のようにも描かれている。いずれにしても、この3つの共観福音書はともに聖霊の降下をイエスの体験に引き寄せて語り、さらに、天からの声をすぐ記す。マタイ(3・17)は「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」、マルコ(1・11)とルカ(3・22)は「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」である。
 それらに対して、ヨハネ福音書1章29−34節の中では、聖霊の降下が洗礼者ヨハネが目撃したこととして語られる(ヨハネ1・32参照)。天からのお告げは言及されない。
 このようにして見ると、主の洗礼のときの聖霊の降下は、イエスの体験のように語られるか、洗礼者ヨハネの証言の一部して告げられるかである。まだ、このときに起こった出来事の真実は、公の人々に明らかにされるというよりも、イエスと洗礼者ヨハネの間だけの出来事のようである。
 そう見ていくと、このジョットの絵における、イエスと洗礼者ヨハネのややこわばったような表情もこの出来事の意味合いを写し出しているもののように見えてくる。二人だけが、ここで起こっている事の重み、厳かさ、そこにおける神の計画を知る者である。その洗礼者ヨハネがイエスの受難の先駆者になるという意味でも、両者は深く関わり合う。その関わり、交わりの濃密さを、教会はヨハネのあかしのことばを歌うミサの平和の賛歌を通していつも思い起こしている。

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