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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年2月26日  年間第8主日 A年 (緑)
主は人の心の企てをも明らかにされる (第2朗読主題句 一コリント4・5より)


パウロ
  モザイク
  イタリア モンレアーレ大聖堂(12世紀)


 マタイ福音書を朗読する今年(A年)は、年間第4主日、マタイ5章からのイエスの説教が続く。先週の箇所からきょうの福音朗読箇所マタイ6章24−34節の間は少し空くが、そのうちの6章1−6節、16−18節は実は灰の水曜日の朗読箇所になっており、毎年読まれているのである。そして、きょうの箇所も、「神と富とに仕えることはできない」(6・24)、そして「ごらんよ 空の鳥」という典礼聖歌でもよく知られている内容の教え「明日のことまで思い悩むな」(6・34)で要約される教えが語られる。根底には「あなたがたの天の父は、これらのものがみなあなたがたに必要なことをご存じである」(6・32)という信頼にある。
 このようにして、マタイ5章の説教から始まり、キリスト者の義を教えるというテーマが一貫しており、きょうは「何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい」(6・33)と呼びかけられる。第1朗読は大変短いが、このイザヤ書49章14−15節も、母親が子どもを忘れることのないように、神は神の民を見捨てることなく、たえず心を配っていることを伝える。神のあわれみ、いつくしみが母親に譬えられていることでも注目されるところであるが、年間第4主日からここまでの第1朗読で思い起こされてきた神についての教えとしても一貫していることは明らかであろう。
 そのように展開されてきて、福音朗読と第1朗読(旧約朗読)の間で、第2朗読では、一コリント書が今年A年の第2主日からきょうの年間第8主日まで(1章から4章までを抜粋して)配分されてきた。きょうはそこで、使徒パウロの像を表紙に掲げながら、一コリント書でここまで語られてきた中のキーワードに注目して黙想の資料としておきたい。
 それは、きょうの第2朗読箇所に出てくる「神の秘められた計画」(一コリント4・1)という言葉である。「秘められた計画」と新共同訳聖書で訳されているギリシア語はミュステーリオンで、本来は「秘密」を意味し、他の箇所では「神秘」とも訳される。したがって、きょうの箇所の「闇の中に隠されている秘密」(4・5)も同じような意味の語句であり、年間第6主日の第2朗読箇所で読まれた一コリント書2章7節「わたしたちが語るのは、隠されていた、神秘としての神の知恵であり、神がわたしたちに栄光を与えるために、世界の始まる前から定めておられたものです」とも重なっている。敷衍(ふえん)して要約すると、神の救いの計画、救いのはからいが、十字架のキリストによって明らかにされ、その計画、その神の知恵がキリスト者には知らされることになったという内容が、このミュステーリオンという言葉(秘められた計画、神秘、秘密)で語られているのである。原意は秘密であっても、すでにキリストによって、すべてが明らかにされ、知らされているという逆説がそこには含まれている。この秘密、この神の知恵の内容こそ、きょうの福音や旧約の朗読が告げる、神のいつくしみとあわれみに満ちたはからい、見守り、心配りにほかならない。
 キーワードであるミュステーリオンは、ラテン語ではミステリウム、またはサクラメントゥムと訳されていき、いま、我々が教会で経験する「秘跡」(サクラメントゥム)という用語にまで発展し、またキリストの神秘とか、過越の神秘といった用語になり、神がキリストをとおして、特にその受難の死と復活をとおして実現された救いの計画(経綸・はからい)の全体を表す重要な言葉となる。第二バチカン公会議の『典礼憲章』や典礼書・儀式書の緒言などでもまさにキーワードとなっている。そのようなとらえ方、考え方の生まれた場所として一コリント書の文章は価値がある。パウロという人物の生涯にも目を向けながら、深く味わっていくのは有意義だろう。

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