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聖書と典礼

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聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年6月25日  年間第一二主日 A年 (緑)
人々の前で自分をわたしの仲間であると言い表す者は…… (マタイ10・32より)


イエスと仲間たち
  手彩色紙版画
  アルベルト・カルペンティール(ドミニコ会 日本)


 きょうの朗読箇所はマタイ福音書10章26−33節。この10章は、十二人の弟子を使徒として選ぶところから始まる(マタイ10・1 −4)。この十二人を派遣するにあたって命じることばが次の5節から始まり、きょうの朗読箇所は、その中の一部である(ルカ12章2節〜9節にも並行箇所がある)。「人々を恐れてはならない」で始まり、「わたしが暗闇であなたがたに言うことを、明るみで言いなさい。耳打ちされたことを、屋根の上で言い広めなさい」(27節)と激励する。人々を恐れるのではなく、神を恐れなさいというメッセージが「雀」に言及するたとえによって強調されているところが特徴である。
 「人々を恐れてはならない」で始まることばの全体は、その前の節、16節〜25節全体で、弟子たちへの迫害の予告が主題となっていることを受けて、それに続いている。迫害状況にあっても、人々を恐れるな、体が殺されることがあっても、魂は滅ぼされることはない、体も魂も滅ぼすことのできる方、すなわち神をこそ恐れよ……という大変現実的なメッセージである。そのあとの「だれでも人々の前で自分をわたしの仲間であると言い表す者は、わたしも天の父の前で、その人をわたしの仲間であると言い表す」(32節)の教えも、この文脈の中にあり、裁判の場に連行されていくときを彷彿とさせる。
 このようなメッセージを内容とする福音に関して、絵を描くというのは、至難のわざであろう。そこをカルペンティール師は、イエスが四人の人を守っている図にした。四人の人の上、中央の(向かって)左は、男性(髭がある)、右は女性、両脇の二人は、子ども、ないし少年であるらしいので、一つの家族を描いているようである。イエスの身体は、これらの人々に比してだいぶ大きい。これは人間以上の存在であるイエス・キリストによって人間の家族が守られているという関係を表しているのだろう。福音と引き合わせるなら、イエスを仲間とあかしする人が、イエスによっても父の前で仲間であると証言されるというあたりと関連しており、「イエスの仲間である」あり方の表現と見ることができる。その父とは、28節を参照するなら、人の魂も体も滅ぼすこともできる方、つまり真実に人を生かしておられる方である。父である神の面影も、この大きなキリストには含まれていよう。
 カルペンティール師は、この構図の背後にさまざまな意匠を凝らしている。(向かって)左,イエスの頭の左横に描かれているのは満月だろう。その左下には葉が生い茂った木。反対側右上には建物、その下には、天使によるマリアへの御告げの光景がさりげなく線描されている。満月が浮かぶ空、建物の上の空を彩る青は、ここでは闇の色として使われている。建物は人間世界の象徴だとすると、闇で包まれている世界に、満月の月が輝いている。満月とはたとえば春の月の満月とはユダヤ教の過越祭の日にあたるので、ここでは、主の過越を意味するものと理解できる。右側の御告げの場面はもちろん、神の子の宿りの告知、救い主誕生の予告を意味するので、この御告げの図と、満月によって、救い主イエス・キリストの生涯の始まりとその終極にある受難の死と復活が表現されている。このイエス・キリストが今、人類家族を守り、御父の前にそのことを言い表してくれているのである。左の木は、キリストとのつながり、キリストをとおしての神とのつながりによって実現される、新しい永遠の命を表していよう。
 あがない主であるキリストは、天にあって今もいつも、父である神と人類を仲介してくださる方である。このことによって、まさに、我々がいつも参加しているミサは成り立っている。イエスの力強い両手によって守られている人類家族の初穂といえるのが、信仰共同体としての教会である。その意味で、この絵は、教会そのものを映し出している。
 余談になるが、ヨーロッパ中世後期に好んで造形された「庇護のマントの聖母像」がある。それはあたかもこの絵のキリストの位置に描かれる聖母マリアが、より小さく造形された人々をマントで覆いながら守っているという構図のものである。もちろん、この絵をとおして、マリアの役割をイエスの存在と併せて考えることが大切である。右側の御告げの図がそのことを暗示している。

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