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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年9月24日  年間第25主日 A年 (緑)
主を尋ね求めよ、見いだしうるときに。(イザヤ55・6より)


預言者イザヤ  
モザイク 
ヴェネツィア サン・マルコ大聖堂 13世紀


 きょうの福音朗読箇所は、マタイ20章1−16節であるが、ここに出てくる「ぶどう園の労働者」の譬えはややわかりにくい。最後の主人(すなわち神)の言葉「わたしの気前のよさをねたむのか」(マタイ20・15 )を手がかりとしたとき、ようやく、ここでは、神の思いと人の思いの違いが強調されており、結局は、先週に続いて、神が限りなく赦してくださる憐れみ深い方であることを教えていることがわかってくる。しかし、このように譬えで語られている教えを、きょうの第1朗読イザヤ書55章6−9節は直接的な神のメッセージとして提供してくれる。「主に立ち帰るならば、主は憐れんでくださる。わたしたちの神に立ち帰るならば、豊かに赦してくださる」(イザヤ55・7)がやはり根本にあるだろう。「わたしの思いはあなたたちの思いを、高く超えている」(同9)は、福音の「わたしの気前のよさをねたむのか」に通じる。
 このようなところから、神の鮮やかなメッセージを伝えてくれている預言者イザヤの姿を表紙に掲げた。きょうの聖書朗読全体を味わえる糸口にしたい。
 美術史的な情報も付記しておこう。828 年、ヴェネツィア市国はイスラム教の侵攻から守るとの目的で、アレクサンドリアの教会に伝わる福音記者聖マルコの遺骸を運び去り、ヴェネツィアに教会を建て、これを安置した。しかし976 年に火災で倒壊。その後、1063−73年にビザンティン・ロマネスク様式の大聖堂が新たに建立され、13世紀初めには大増築。その後もたびたび増改築をみた。聖堂内部のモザイク壁画は12−14世紀に造られたものである。キリストやマリアを中心とする図柄の絵の合間に預言者などの聖書中の人物が全身像として描かれる。聖書が語る神の救いの歴史を人物像をもって生き生きとイメージさせ、キリストの生涯、その死と復活を根源として、御父の救いの計画が遠大な展望をもって表現されている。
 ここのイザヤの像の右側にはソロモンの像があり、構図も対称的になっている。ソロモンが宝石をあしらった王の装束と冠で示されるのに対して、このイザヤは長い白髪と髭、白いマント、威厳のある顔つきが印象的である。この姿は、イザヤの預言が伝える神の簡潔で力強いことばとよく響き合う。
 預言者の姿は、この意味で、神のことばの象徴となる。そしてそのことばは、普遍的に人々の心をとらえる力がある。「主を尋ね求めよ、見いだしうるときに。呼び求めよ、近くにいますうちに」(イザヤ55・6)。このことばは、すべての人、特に若い人々を、神との出会いへと招いているのではないだろうか。
 続く、「主に立ち帰るならば……」「神に立ち帰るならば……」という7節のメッセージは、神は我々人間にとってよそよそしい方ではなく、もともと人間は神のもとから生まれ、神とともにあったのがという創造の記憶を呼び起こす。そのメッセージのうちにすでに福音が響いている。
 このような神のことばに対応する信仰を告げるのが、この日の答唱詩編である。特に「あなたは恵みとあわれみに満ち、怒るにおそく、いつくしみ深い」(詩編145・6典礼訳)、「助けを求めるすべての人と、心から祈る人のそばに神はおられる」(同18 典礼訳)などはイザヤの箇所との対応が明らかだろう。第1 朗読と答唱詩編のこの呼応関係は、味わい深い。
 そして、第2朗読はフィリピ書。先週までのローマ書に代わって、フィリピ書の準継続朗読が始まる。この日はフィリピ書1章20c −24節、27節a となっており、「わたしにとって、生きるとはキリストであり、死ぬことは利益なのです」(1・21)、「この世を去って、キリストと共にいたいと熱望しており、この方がはるかに望ましい」(1・23 )といった、殉教をも覚悟したようなことばが発せられている。その意味は、先週のローマ書のことば「わたしたちは、生きるとすれば主のために生き、死ぬとすれば主のために死ぬのです。従って、生きるにしても、死ぬにしても、わたしたちは主のものです」(ローマ14・8)と通じている。キリスト者にとって生きることはキリストのためなのだという思いの告白である。これが「ひたすらキリストの福音にふさわしい生活を送りなさい」という使徒のメッセージの根っこにある。「福音にふさわしい生活」という表現は美しく響くが、現実には人の「生き死に」がそこにかかっているのである。

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