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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年10月22日  年間第29主日 A年 (緑)
皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい  (マタイ22・21より)


全能者キリスト  
テンペラ ギリシア アトス 
ヒランダリ修道院 13世紀後半


 きょうの福音朗読箇所は、有名な「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」(マタイ22・21)というイエスの言葉が告げられる場面。この箇所で、ファリサイ派の弟子たちからイエスに差し向けられた問いは、「皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか」というものであった(同22・17)。この問いかけが、イエスの言葉尻をとらえて罠にかけるためのものであったことは最初に述べられている通りである(同22・15)。そのため、ここの場面は納税論争と呼ばれるのだが、イエスの答えは質問者の意図をはるかに超えた意味をもっており、上述の言葉はさまざまに解釈されるようになっている。
 聖書のことばを絵やイコンとともに味わうという、このコーナーにとって、とても示唆的な解釈がある。それは、イエスが、皇帝の像と銘が刻まれるデナリオン銀貨を指して「これは、だれの肖像と銘か」(同22・20-21)と逆に問いかけたときの肖像という言葉に注目していく考え方である。この言葉はギリシア語ではエイコーンで、「像・かたどり・似姿」などを意味する語でもある。神が人をご自分にかたどって創造した(創世記1・26-27 参照)というところから、人間が神の像であるといわれるときにこの言葉は使われる。したがって、ここは、皇帝の像が刻まれているものは皇帝に返しなさい、そして「神のものは神に」、すなわち、神のかたどり、神の像として創造されたあなたがた自身はあくまで神に属するものなので、自らを神に返しなさいというメッセージを含蓄していると解釈されるのである。いずれにしても、皇帝への納税が律法に適っているかどうかという問題をはるかに超えて、神の前に人々を立たせる、きっぱりとした力あることばである。
 肖像・像・似姿あるいは端的に姿とも訳されるギリシア語のエイコーン(イコンの原語)という語は、二コリント書では次のような箇所で使われている。「わたしたちは皆、顔の覆いを除かれて、鏡のように主の栄光を映し出しながら、栄光から栄光へと、主と同じ姿(エイコーン)に造りかえられていきます。これは主の霊の働きによることです」(3・18)。ここには、何よりもイエス・キリストこそ神の姿、神を表された方であることが前提とされており、そのキリストの姿と同じ姿に変えられていくのがキリスト者の生き方なのだという教えがある。人が神のかたどりであることを想起するときに、何よりもキリストが神を現す方であるということを想起する必要がある。きょうの朗読箇所にちなんで、キリストのイコンを表紙絵に掲げ、黙想するのはそのためである。
 このキリスト像の前で、「わたしが主、ほかにはいない」と二度繰り返される、第1朗読のイザヤ45章5、6節を味わってみよう。だれが主であるのか、だれが神であるのか、という問いかけが鋭く迫ってこよう。そして、福音のイエスのことばは、我々が何のために生きているのか、何に仕えて生きていくのか、という大変現実的な問題にまで近づいてくる。現代では「あなたにとって神はだれか」とも人に聞きたくなるが、神とはそういうものではない。きょうの聖書朗読は、個人の中に感得される神の存在ではなく、客観的な現実世界の支配者である神の存在に気づくようにとのメッセージが貫かれている。それが皇帝との対比で神がいわれている意味でもある。万物を造り、導いている客観的な神の存在への眼差しを我々に呼び起こし、間接的に、あなたがたはその神のものであると訴えかけているのである。
 イザヤの預言で、「日の昇るところから日の沈むところまで、人々は知るようになる、わたしのほかは、むなしいものだ、と。わたしが主、ほかにはいない」(イザヤ45・6)と告げられ、そのような神の普遍性、唯一性が強調されていることを踏まえるとき、きょうの福音のイエスのことば「神のものは神に返しなさい」のもつ意味の大きさが鮮明になる。我々の神は普遍的な神である。我々一部のものが信じているだけのものではなく、神のことを知らずに、神に心を向けることがなくても生きているすべての人にとっての神である。その神のことをキリストによって知らされたと信じる者には、ひたすら、その神に仕えることが求められる。それは、同じ唯一の神によって生きているすべての人に、神のことを気づかせるという使命のためである。ここに、まさしく宣教の根拠がある。ミサで我々が信仰告白するのはそのような神である。

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