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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年12月24日  待降節第4主日 B年 (紫)
あなたは身ごもって男の子を産む (福音朗読主題句 ルカ1・31より)

お告げ  
フラ・アンジェリコ作 テンペラ画 
マドリード プラド美術館 1431−35年


 きょうの福音朗読箇所は、ルカ1章26−38節。いわゆる「お告げ」の場面である。そして、表紙は、受胎告知と題される絵の中でも有名な作品の一つ。見るからに美しく、この出来事の神秘感を静かに伝えている。マリアへの御告げの場面は、古来、愛されてきた主題の一つだが、その発展の様子も興味深いものがある。中世からの展開に限っていえば、室内にいるマリアに天使ガブリエルが現れ、告げるという描写方法が一般化されている。このフラ・アンジェリコの画はロッギア(開廊)と呼ばれる建物の一部ではあるが外に開かれた空間での出来事となっており、その外にはアダムとエバの楽園追放の場面が描かれているところが意味深い。
 静かに座すマリアは胸の前に手を交差させつつ少し前にかがんでいる。天使のお告げを受け入れたという姿勢。「フィアット」すなわち、天使のお告げに対して「お言葉どおり、この身に成りますように」と答えた姿勢である。そこには気品も同じように伴われており、神の母として敬われるマリアの姿が鮮やかに表現されている。天使ガブリエルの姿勢も、神のことばを告げるという意味ではもっと威厳ある姿勢でマリアに対してよいものだろう。しかし、ここでの天使は、自らも胸の前で手を交差させ、少し低い位置からマリアに向かって身をかがめている。この絵全体がマリアへの高い崇敬を表現していることが感じられる。
 同時に、お告げより高い位置で聖霊の光線が差し込んでいる。その光源には、天から神の手が突き出ている。古来の伝統的な目に見えない御父である神の象徴である。と同時に、天使とマリアの間の柱の上のところには、御父である神の姿が刻まれている。ここに、御父と聖霊、そしてマリアの胎内に宿ることになる御子という、三位一体への信仰心が絵の核心をなしていることが伝わる。
 さらに、画面左端の楽園追放の図が味わい深い。その植物の描写、緑の美しさは、永遠のいのちの素晴らしさ、美しさを感じさせてやまない。そこから、人祖アダムとエバが追放されて、土を耕し、子孫を苦しんで産むなど、地上での生存へと定められて以来の歴史が凝縮されていよう。そのような人類史の頂点として、今、救い主である神の御子の、地上における人間としての誕生が告げられている。イエスの受胎、誕生は、それほどに全人類にとっての決定的な出来事である。そのような聖書が物語る人類救済の歴史を熟知しての絵画構成であることがわかる。
 この絵は、開廊という、神の計画に向かって開かれた空間での出会いというふうにお告げをとらえ、描いていることが感じられるが、その奥には部屋も見える。建物自体は人間の世界、地上の世界の象徴だとすれば、この神に開かれた空間でなされたお告げの内容、神の子の人としての誕生は、さらに地上の世界の内部に向かっても影響を及ぼしていくことの暗示があるのかもしれない。それこそがイエスの地上での生涯をなすものとなる。
 この絵の美しさは色彩からも感じられる。マリアの衣と開廊の天井の青は、宇宙の青さであり、聖霊の青ともえる。天から指す聖霊の光線、天使の翼、マリアの光輪、座の後ろを占める金色は、もちろん神の力を表している。人類の歴史の頂点に神の御子が救い主として遣わされ、人として生まれることが予告される。これこそ、第2朗読で読まれるローマ書16章25−27節でいわれるところの「世々にわたって隠されていた、秘められた計画」である、それが、今や啓示され、現され、すべての人に知られるようになっている。これこそが福音、すなわちイエス・キリストについての告げ知らせそのものである。
 マリアの受胎する御子の生涯を、我々は福音書を通じて知らされている。そのすべての意味を、救いの歴史の中で、また三位一体の神のみわざとして思いめぐらすために、美しい刺激に富んでいる。

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