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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年12月25日  主の降誕 (夜半のミサ) B年 (白)
今日、あなたがたのために救い主がお生まれになった (福音朗読主題句)

主の降誕と羊飼いへのお告げ  
ライヘナウの黙示録 
バンベルク国立図書館 11世紀初め 


 10世紀から11世紀にかけての写本芸術の最盛期を作り出したライヘナウ派の作品の一つ。二段構えになっていて、上が降誕の出来事、下がその出来事を告げられる羊飼いたちを描く。それは、あたかもこの夜半のミサの福音朗読箇所ルカ2章1−14節の前半(1−7節)がヨセフとマリアがベツレヘムに行った経緯とそこでのイエスの誕生、後半(8−14)が羊飼いへの降誕のお告げを中心に述べているのと似ている。
 上段では、写本画における降誕図の古くからの定型要素である幼子、マリア、ヨセフ、牛とろばが組み合わされているが、それぞれの描き方や構成の仕方に個性が出てくる。
 まず、何よりもイエスが大きい。幼子というより少年のようである。神の御子の人間としての誕生を強調した結果である。向かって右側にマリアが描かれるが、スペースの関係だろうか、寝床に横たわるという姿勢ながら全体としては体を立てかけている。そして、イエスのほうに両手を伸ばし、見る者にイエスを示すような姿勢にも見える。(向かって)左側のヨセフははっきり立って幼子への礼拝姿勢をとっているが、いずれにしても、そのようにして、幼子(少年のような)イエスが中央に位置して強調されていることがわかる。
 飼い葉桶も、実際には城壁に囲まれた空間のようでもある。牛とろばが、寝床に横たわる幼子を覗き込むのも立派な建物である。これらをもって地上世界全体が象徴されているといわれる。神の御子はまさしく地上世界に人として生まれたことの強調である。
 下段の上では、天使が羊飼いに「今日……あなたがたのために救い主がお生まれになった」と告げている(ルカ2・8−12)だろう。そのことばに振り返る羊飼いの姿が生き生きとしている。普通に労働に勤しむ人にこのお告げがくだる。彼は「民全体に与えられる大きな喜び」(ルカ2・10)でいわれている「民」の象徴である。また、羊の群れ自体も民の象徴だろう。すると、中央に建物の中に描かれているのは、特別な神の小羊、すなわち、自らをささげるイエスの暗示があるのだろうか。このようなしるしを描く作例も少ないので定かではないが、上段のイエスの真下に描かれるだけに、やはりキリスト論的形象ではないかと考えられる。
 もし、そのような意味の図であるとしたら、第2朗読テトス書2章11−14節の内容を合わせて味わうことができる。それは、イエス・キリストの存在、その生涯全体を、「すべての人々に救いをもたらす神の恵みが現れました」(11節)と述べている。「キリストがわたしたちのために御自身を献げられたのは」(14節)といって、贖(あがな)いのためのイエスの自己奉献、十字架での死、そして復活までも視野に入れて語っているからである。降誕祭は、ただたんに一人の御方の誕生のお祝いではなく、イエス・キリスト、神の御子、すべての人の救い主の誕生の時を思い起こしつつ、その生涯と存在全体を観想し祝うことである。
 この絵の中で、もっとも大きな面積を占めている色彩は下段の金色である。もちろんここには、羊飼いたちのところに主の天使が近づき、「主の栄光が周りを照らした」(ルカ2・9)ことが表現されている。上段では、幼子、マリア、ヨセフ、天使の光輪、ろばと牛の家も満たしている金色。それは、救い主の降誕によってすでに訪れていく神の恵みと栄光の色であると同時に、それを知らされている我々が最後の完成の時に待ち望む「イエス・キリストの栄光の現れ」(テトス2・13)をも予告する。それは、第1朗読イザヤ書から9章1節とともに味わうことができる。「闇の中を歩む民は、大いなる光を見、死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」。この光の到来、神の栄光の現れによって、過去も現在も未来も、神の計画に包まれていることが示される金色である。上段の青や緑も、闇の中からの新しい曙、新しい天、新しいいのちを連想させる。このように、この絵には、降誕の神秘を思いめぐらすためのさまざまなしるしが詰まっている。

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