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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年4月29日  復活節第5主日 B年 (白)
サウロが旅の途中で主に出会い、……イエスの名によって大胆に宣教した(使徒言行録9・27より)

イエスの教えを聞くパウロ  
フレスコ画 
ヴィア・ラティーナのカタコンベ 4世紀

 きょうの表紙は、第1朗読の使徒言行録9章26−31節に記されるサウロ(パウロ)と主の出会いの出来事にちなんで、イエスの教えを聞くパウロを描く、珍しいカタコンベの絵の部分にした。全体としては使徒たちに教えるイエスの姿を描く初期に(石棺彫刻などで)よく見る画題の図の一部である。キリストは玉座に座しているようであり、教えを授け、祝福するようなしぐさの右手が見える。パウロの姿は、禿げた頭と右手に巻物を持っているところに特色がある(これらの属性となる要素をアトリビュートという)。知的な雰囲気を漂わせる姿である。
 さて、復活節の第1朗読は、使徒言行録が朗読されるというのが特徴である。第1朗読=旧約朗読と思い込んでいると一瞬驚かされる。なぜ使徒言行録かということを理解するためには、主の過越の神秘を中心とする四旬節から復活節全体の朗読配分の構成を見る必要がある。四旬節の第1朗読は、旧約朗読であり、それは福音の予型として主題的に選択されているだけでなく、大体において、旧約の救いの歴史を時代順にたどっていくような展開をしている。それに対して、復活節からは、主の復活を体験した使徒たちの宣教の展開を使徒言行録から読んでいく。つまり、主の復活により、旧約の歴史から新約の歴史へと展開していったことが第一朗読の変化によって、そして特別に使徒言行録を朗読することによって示されていくのである。使徒たちの宣教と行動の根底には、つねに主の死と復活の神秘があり、そのことがさまざまに証しされていく。
 さて、サウロ(パウロ)と主の出会いであるが、きょうの箇所で「サウロが旅の途中で主に出会い、主に語りかけられ、ダマスコでイエスの名によって大胆に宣教した次第」(使徒言行録9・27)と要約されている出来事の本体は、その前の使徒言行録9章1−22節に語られている。一般にパウロの回心と呼ばれる出来事であり、あるいはパウロの宣教の始まりともいえる箇所である。ここのほか、パウロの回心(主との出会い)については、使徒言行録においてパウロ自身の語りとして22章6 −16節、26章12−18節でも記されている。また、ガラテヤ書でもパウロは自らが使徒として選ばれた次第を語っている(ガラテヤ1 ・11−24)。使徒言行録とガラテヤ書では文脈も異なり、語られる要点も異なっており、その相違はしばしば論じられるところだが、特別なイエスとの出会い(啓示)をパウロが体験し、キリスト者となり、使徒として宣教を始める人となったことは確かであろう。
 パウロの宣教活動の始まりを記述するきょうの朗読箇所の語句は、注目すべきものがある。「イエスの名によって大胆に宣教した」(使徒言行録9・27)、「主の名によって恐れずに教えるようになった」(28節)。並行的記述だが、特に前者に出てくる「大胆に」とは、単に勇気をもってという気持ちの問題だけでなく、「公に」宣教したという意味も含んでいる。「人前でイエスが主であることを公に言い表す、告げ知らせる」という様子を意味するものである。
 「イエスの名によって」「主の名によって」という部分に、きょうの福音朗読(ヨハネ15・1 −8)の主題ともいえるイエスとのつながり(原語的にはイエスへのとどまり)や、第2朗読の一ヨハネ書(3・18−24)で述べる、神の子イエス・キリストの名を信じること、神の内にいつもとどまることと関係している。ヨハネ的表現だけをみると、つながることやとどまることから、内向き志向が語られているかのようであるが、そうではなく、イエスとのつながりを公に表すこと、証しするということが表裏一体で含まれているように思われる。使徒言行録9章31節は、初期の宣教の発展ぶりをいわばバラ色のように教会が発展し、信者の数が増えていったと記すが、「主を畏れ」と記すことも忘れてはいない。そして「聖霊の慰めを受け」という記述は、ヨハネ的な表現(「イエスとのつながり」「神の内へのとどまり」)と対応しているといえよう。
 表紙のカタコンベの絵にみるパウロは、静かに神妙に主キリストの前にたたずみ、その教えの力を受け取っている。ここに見るような主の前での畏れを感じさせる姿勢こそ、初期の教会の時代から現代にまで受け継がれる宣教の精神であろう。主を畏れればこその大胆な宣教である。

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