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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年2月17日  年間第6主日 C年 (緑)
貧しい人々は、幸いである、神の国はあなたがたのものである(ルカ6・20より)

キリスト 
モザイク(「デイシス」の部分) 
イスタンブール ハギア・ソフィア 1260年頃

 ルカ福音書による「幸いである」ことの教えがきょうの福音――その「貧しい人々は、幸いである」と告げるイエスのみ顔を、モザイクで描かれたキリスト像とともに黙想してみよう。
 トルコのイスタンブール、かつてのコンスタンティノポリスのハギア・ソフィア大聖堂のモザイクである。全体が「デイシス」と呼ばれる構図の一部、中央のキリストの部分である。デイシスとは、審判者である救い主キリストに対して、向かって左に聖母マリアが、右に洗礼者ヨハネが人類の救いのための取り成しを祈るところを描く図のことである。最後の審判の意味をこの三者に象徴させて簡潔に表現する図と解されている。ハギア・ソフィア大聖堂のデイシスは、マリアの箇所が相当部分、洗礼者ヨハネとキリストも下のほうが失われているが、キリストの姿は、威厳とともに深い慈悲を印象づける。その祝福のしぐさには荘厳な力が備わり、見る者に迫ってくる。
 さて、きょうの福音朗読箇所はルカ6章17、20−26節で、イエスの「平地の説教」を伝えるもの。そのうちの20−26節が「幸いと不幸」についての教えである。マタイ福音書5章3-12節のほうが山上の説教の一部である「八つの幸い」または「真福八端」の教えとしてよく記憶されている。それは「心の貧しい人々は、幸いである」というフレーズが難しいのにもかかわらず、逆にインパクトが強いためかもしれない。ちなみに、なぜ「真福八端」と呼ばれるのかを考えると、「端」は発端や端緒という熟語で遣われるように「糸口・始まり」の意味なので、「真の幸福の八つの始まり」の意味で言われているのだと思われる。
 この八つの幸いの教えに対して、ルカのほうは、最初の文も、「貧しい人々は、幸いである」と文言が明快で、ルカ福音書全体が主眼の一つとしている貧しい人々にもたらされる福音というポイントが端的に出ている。このほか,幸いであると告げられるのは、「今飢えている人々」(ルカ6・21)、マタイでは「義に飢え渇く人々」(マタイ5・6)とやや難しいのに、ルカの表現は率直である。「今泣いている人々」(ルカ6・21)という表現はマタイには出てこない。マタイでは「悲しむ人々」(マタイ5・4)が出てくる。ルカでは、その「今泣いている人々は、幸いである、あなたがたは笑うようになる」(ルカ6・21)と告げられる。「笑う」という語が出てくるのも珍しい(福音書というよりも新約聖書の中で「笑う」という単語が出てくるのはここだけという)。しかし、これらのルカの表現は、とても、わかりやすく、親しみ深い。しかも、マタイのほうは、そのようなさまざまな人のことをあげて、「天の国はその人たちのものである」あるいは「その人たちは満たされる」というように三人称的に語るのに、ルカでは、どのような人々も「あなたがた」と呼ばれ、目の前にいるさまざまな状況の人々に対して語りかけるようになっている。イエスのメッセージの親しみやすさ、人々のもとに親しく現れた救い主の姿が浮かんでくる。 ルカ福音書における幸いの教えは、次に「人々に憎まれるとき……、あなたがたは幸いである」(ルカ6・22)の部分は、言葉は違うがマタイ5・11と意味は同じであることがわかる。
 結局、ルカでは四つの幸いが告げられている。ルカ福音書の場合、もう一つの特徴がある。四つの幸いと対比される「四つの不幸」の教えがすぐ続くことである(6・24−26)。その対比もわかりやすい。「富んでいるあなたがた」「今満腹している人々」「今笑っている人々」「すべての人にほめられるとき」という流れである。どちらでも「あなたがた」と呼ばれるので、ひとまず語りかけている相手が違うのだろうと考えてしまう。しかし,今、キリストが語っている教えとして聞くと、同じ「あなたがた」に告げられることが、今それを聞く「わたしたち」に対する鋭い問いかけであることに気づかされる。「あなたがたはどう生きているのか」と。いつくしみ深く、親しい方でありつつ厳しい方でもある。そのような主キリストの聖なる威厳がこのモザイクの像を通してもよく感じられる。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために  

「山」は、旧約時代からイスラエルの人々にとって、神の声を聞く聖なる場所とされていました。しかし、この個所を「ルカによる福音書」で見ると、「イエスは彼らと一緒に山から下りて、平らな所にお立ちになった」(6・17)とあります。ルカはイエスを、神から人々の中に遣わされたことを強調するために、こう書いていると考えられています。
オリエンス宗教研究所 編『聖書入門――四福音書を読む』「第5講 福音の核心」本文より


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