「技術は考えない」。生命アカデミーの会議でよく耳にする言葉です。二十世紀以降、人類は原子力、脳神経外科、遺伝子操作、AI(人工知能)等の革新的な科学技術を次々に開発してきました。しかし開発されたばかりの新技術はその使用法を教えてくれません。それを何のために、どのように利用――善用、濫用、誤用、悪用――するかは、もっぱら人間の判断に委ねられています。 原子力の医療応用や平和利用と軍事利用との違いを考えれば自明なことのように思われますが、日本では新技術の推進が優先され、法規制には極めて消極的な現実があります。米国の核の傘下にある日本の現状を反映しているのかもしれません。しかし私たちは、核分裂の基礎理論を構築したアインシュタインが第二次大戦中、ドイツで原爆が開発されているとの偽情報を信じた物理学者らの要請を受けて、原爆の先行開発を勧告する米大統領宛ての書簡に署名し、それが日本への原爆投下に至ったことを生涯悔いていた事実に思いを致す必要があります。 先頃、AI研究の世界的権威ジェフリー・ヒントン博士がグーグルを退社して「AIによる人類絶滅のリスクの軽減」をグローバルな優先課題とすべきとする書簡を公表して話題になりました。生命アカデミーはすでに二〇二〇年にマイクロソフト、IBM、国連食糧農業機関、イタリア政府と共同で、AIが人類社会に重要な役割を果たす未来に向けて、AI技術を正しく進歩させるための倫理学の展開を呼びかける書簡「AI倫理学のローマからの要求」を公表し、国際機関、宗教組織、企業、大学、研究機関等、多方面から多くの署名を集め、EUではこれをベースにしたAI規制法案も策定されています。 神の似姿に創造された人間は、地球と人類社会を統治する執事の役割を果たす責任を委ねられています。「AIによる人類絶滅のリスクの軽減」だけでなく、全被造物にとってより豊かな社会の真の発展のために、最新科学技術を正しい方向に導くグローバル倫理学の構築を急がなければなりません。(『聖書と典礼』2023年9月10日) 『聖書と典礼』年間第23主日 (2023年9月10日)表紙絵解説 |