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コラム一覧へ ソウルと釜ヶ崎で、貧しさについて考えたこと

中井 淳(イエズス会司祭・ロクスひよりやま〈旧下関労働教育センター〉キャプテン)
 みなさんは、「貧しさ」と聞くと、どんなイメージを持ちますか? 世界で貧しい人と富んでいる人との差が広がっていて、食べるものに困って命を失う人もいます。このような貧困の問題に対して、わたしたちは解決するように努力しなければなりません。同時に、聖書では、貧しい人々を通して働かれる神のみわざを見ます。ですから、「貧しさ」というものは、わたしたちが神さまとつながる大切なものでもあります。

●ソウルで考えたこと
 最近、「貧しさ」と「貧困」の問題について、考える機会が多くあたえられました。昨年11月に日本のイエズス会の社会問題に関わるメンバーで韓国のソウルを訪れました。韓国で同じように社会問題に関わるメンバーと毎年会議を重ねてきて10年が経ちます。今回のテーマはまさに、「貧困」でした。韓国の都市ではどんどん再開発が進んで、以前に見られた貧しい人々が共に暮らす地域というものが解体され、人々はばらばらになって、目に見えにくい場所に追いやられています。そうやって、貧しさが目に見えにくくなる中で、生きる権利をおびやかされている人々の声を聞き、社会に発信し、貧困問題を解決しようとしている活動家や先生たちの話を聞きました。そのような再開発がまさに行われようとしている場所をめぐるフィールドワークもしながら、韓国の仲間と共に、貧困という社会の構造の問題について向き合いました。
 2日目に、チョン・テイルという労働者の権利のために身をささげた方の記念館を訪れました。説明してくれた仲間は、「彼の死によって、多くの人々が回心して、それが韓国の民主化運動につながっていったんだよ」と、「回心」という言葉をくり返しました。回心とは、神さまへと立ちもどり、生き方が変えられていくことです。「回心」という言葉がわたしへの呼びかけのように聞こえました。

●釜ヶ崎で考えたこと
 これらのテーマは、日本の仲間たちで大切にしようとしているものと同じでした。9月に、日本のメンバーは、大阪の釜ヶ崎で会議をしたのです。釜ヶ崎は、日やとい労働者の寄せ場として知られてきた場所で、イエズス会は旅路の里という、釜ヶ崎に住む人々と共に歩むしせつを運営してきました。高校生のときに、野宿者のための越冬ボランティアに連れていってもらったのが、わたしにとって最初の釜ヶ崎体験です。イエズス会に入り2年目に1か月の実習を釜ヶ崎でさせてもらってから20年が経ちます。そのとき、貧しい人々のうちに神さまの力が働いていているということ、その人たちの中に、社会を良い方向に変えていく力があるのだと学びました。釜ヶ崎を仲間たちと歩きながら、そのことを思い出していました。

●「回心」への呼びかけ
 わたしは、下関で子ども食堂や、キッチンカーで食事を配ったり、野宿者のたき出しに参加しながら、貧しさに向き合う機会があります。でも、十分ではありません。もっと深く入っていかなければいけないのだという呼びかけをあたえられていると思います。富んだ人が貧しい人にあたえていくのではなく、貧困の問題を解決しようとしながら、わたしたちがあたえられていく、学ばされていくのだ、貧しい人々と共に歩みながら、自分たち自身が変えられていくのだということを大切にすべきです。ソウルであたえられた「回心」への呼びかけは、その道を歩んでいきなさい、ということなのでしょう。まだまだ果てしない道ですが、一歩一歩、歩んでいこうと思います。(週刊『こじか』「虹の橋をかけよう 信頼の翼をひろげて」2024年2月11号より)

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