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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年3月26日  四旬節第4主日 A年 (紫)
人は目に映ることを見るが、主は心によって見る (サムエル上16・9より)


竪琴を奏でるダビデ
  『パリ詩編』挿絵
  パリ国立図書館(十世紀)


 先月、年間第5主日にも参照した『パリ詩編』の挿絵。ビザンティン帝国マケドニア朝(867年〜1057年) 、コンスタンティヌス7世(在位908-959年) の頃に作られたとされる詩編書のもので、古代ギリシア的な表象を多く含んでいることから一種独特な雰囲気が注目されている。ダビデの詩を多く含んでいるとされる詩編の書であり、ダビデ自身が詩編を擬人化するほどの存在であることから、「竪琴を奏でるダビデ」は全体を象徴する位置づけにあると思われる。
 この場面でも、「羊の番」(サムエル上16・11……きょうの第1朗読に含まれる箇所)を仕事としていることの反映がある。ほかに犬や角の長い動物も描かれている。真ん中にいるダビデは、貧しい羊番というよりも華美な要素を帯びた衣服を来ており、すでに王の風体である。彼の後ろにいるのは、古代ギリシアの女神メロディアで、ダビデが奏でる音曲の優美さを表現する役割を果たしている。
 右側で、柱の陰から姿を現しているのが、オレイアスといって「こだま」(木霊・山の木の精)にあたる存在である。海・川・泉・木・森・山などの精を総称するニンフの一種で、ここではメロディアとともにダビデの奏でる音楽が自然の中で反響を呼んでいる様子を示している。オレイアスが身を隠している柱の上にある器のようなものは、古代ローマの宗教で使われていた祭器を表現するようである。ここで奏でられる音楽が礼拝の音曲、神にささげられる音楽であることを示している。
 右下に腰掛けている赤い肌の男は、その下にある文字が示すようにベツレヘムを擬人化した人物である。月桂樹の葉を冠としており、勝利者というニュアンスがある。このような表現法は、ギリシア神話に登場する吟遊詩人オルフェウスの伝説を描く絵にも見られる。オルフェウス自身、竪琴の名手で、彼が奏でると森の動物や木々や岩までも耳を傾けたという。このダビデの図自体がその意味でオルフェウス伝説を下敷きにして描かれたものであることがわかる。それとともに、ベツレヘムをここに描き込んでいることには意味がある。ベツレヘムはダビデの出身地(サムエル上17・12参照)であり、「ダビデの町」とも称される。そして、言うまでもなく、イエスの誕生の地である(マタイ2・1、ルカ2・4参照)。ダビデから始まるメシア(油注がれた者、まことの王である救い主)の系譜にイエスはベツレヘムを通してつながっており、それを完成させたからである。したがって、ここにベツレヘムが描かれていることで、ダビデの姿はイエスを前もって示すしるし(予型)となる。古代神話のオルフェウスを背景に、旧約のダビデを眺め、さらにイエス・キリストの姿をその上に見ていくべき絵であることがわかる。
 さて、ダビデの絵にこだわったが、きょうの福音朗読箇所は、ヨハネ9章1−41節(長い形)。生まれつき目の見えない人がイエスによっていやされ、目が見えるようになったという奇跡を述べるところ。だが、話は、だれが人の目を開かせてくれる方であるかという問いに向かい、神こそが人の目を開けてくださる方だという証言に移行していく。神の働きを素直に従順に受け入れることによって、人はまことの目、心の目をもつようになるというところにまで深まっていくのである。このような「目が開かれる」という主題との関連も、第1朗読のサムエル記上16章からの朗読は含んでいる。主が「心によって」見て、ダビデを選んだ経緯に語られるからである(サムエル上16・7)。これらを踏まえると、神の目を意識し、神の計画、その恵みの計らいを見ることができるように、神自身の力を受けて目が開かれる者となることが、キリスト者に約束され、また求められていることがこの日のメッセージとして浮かび上がってくる。
 第2朗読(エフェソ5・8−14)では同じようなことが「すべてのものは光にさらされて、明らかにされます」(5・13 )と「光」のイメージで語られる。その中で、「あなたがたは……主に結ばれて、光となっています。光の子として歩みなさい」(5・8)、「何が主に喜ばれるかを吟味しなさい」(5・10)、「暗闇の業(わざ)に加わらないで……明るみに出しなさい」(5・11)と呼びかけられる。このような教えをもとに、入信式では「光の子」として生きるための出発点として、復活ろうそくから光を受ける儀式が組み込まれている。そのような光を受けることになる、洗礼志願者、そして光を受けているはずの信者たちにとって、この光の子として生きることへの招きにどれだけこたえることができているか……四旬節の祈りと黙想の大きなテーマとなっている。

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