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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年6月4日  聖霊降臨の主日 A年 (赤)
五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると…… (使徒言行録2・1より)


聖霊降臨
  ライヘナウの朗読福音書
 ドイツ ヴォルフェンビュッテル図書館 1000年頃



 10−11世紀において、写本画制作の中心地の一つであったライヘナウの修道院(ボーデン湖畔、ドイツとスイスの境)で作られた朗読聖書の写本画である。所蔵元は、ドイツ北部ニーダーザクセン州にある旧大公領首都ヴォルフェンビュッテルにある図書館。
 聖霊降臨の出来事を描く、写本画には、聖霊を受けるのが使徒たちだけの集団の場合と、その中央にマリアがいる場合に大別される。これのライヘナウの朗読福音書では、左右に6人ずつ合計12人の使徒が描かれている。聖霊降臨を物語る使徒言行録2章の直前で、マティアが選ばれて使徒に加わり、再び12人になったことが前提となっている。
 聖霊の降臨を物語る使徒言行録の筆致はイメージ豊かである。「突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった」(使徒言行録2・2−3)。
 この画の上の部分、天の中央から、雲の間から金色の稲妻が発されているようである。天から響く音をまさしく稲妻のように描いたのであろう。両脇にいる天使は、これが神からのものであることを示しているようである。そして、「炎のような舌」が、すでに、十二使徒の頭の上に置かれている。まさに、2−3節の描写そのものを描きとどめている画である。
 そして、その他の要素によって、この聖霊降臨という出来事の意味が表現されているようである。
 まず、使徒たちの様子。彼らの表情は、あまり差がないが、後ろ側にいると思われる8人はやや上目遣いで、前にいる四人は、互いに見合っているように見える。中央に近い二人(えんじの衣と緑の衣)のどちらかがペトロと思われるが、定かではない。主の昇天の図では、使徒たちは、天を見上げているという光景が多いが、聖霊降臨では、たしかに聖霊が降りてきた天のほうを仰ぐ場合もあるが、他方で、聖霊を受けてから自分たちの使命を自覚しているような描き方になる場合が見られる。この画の場合も、互いに見合っている様子のうちに、自分たちの使命への意識が示されているのであろう。
 使徒言行録は語る。「すると、一同は聖霊に満たされ、“霊”が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした」(使徒言行録2・4)。おそらく、このそれぞれの国の言葉での宣教に乗り出す寸前の使徒たちの様子が描かれていると思われる。ところで、使徒たちが持っているものに注目すると、三人は本、二人は巻物を抱えている。長く、神のことばを象徴するものとして、巻物が描かれている場合と、本が描かれる場合の二つがおもにあったといえる。
 ここで、書物の歴史が関係してくることが興味深い。巻物がより古い形式であることは知られているが、いわゆる頁を重ねて綴じるコーデックスと呼ばれる本の形式が普及するのは、4世紀以降、まさにキリスト教がローマ帝国で公認されて以降という。つまりキリスト教の聖書が普及するのと本が普及するのは並行していたというのである。この画の中で、巻物と本がともに描かれているのは、まだ併存している時代だったことを意味しているのかとも思うが、この図の使徒たちの中央に、開かれた本が描かれているという点では、まさしく、これが神のことばを象徴しているのではないかと思われる。その神のことばを、それぞれの国の言葉で、さらに、それぞれの文化圏における書物の形式を通しても、広くのべ伝えられるようになる、その出発点が聖霊降臨だということが表現されているのではないだろうか。
 さて、使徒たちのいる空間は、屋根のある建物として造形されているが、その中は金色が一面に塗られている。神の栄光の充満、聖霊の充満が鮮やかに伝わる。屋根の上の一定層が明るい紫色となっているが、これは、曙の意味合いがあると思われる。まさしく、新しい時代、新しい契約の時代、新しい人類の始まり、それに奉仕する神の民の誕生のときなど、さまざまな意味での「夜明け」が描かれているのだろう。
 新しい息吹を十分に感じさせる画とともに、我々にとっては主日のミサが毎週の聖霊降臨でもあることを味わっていきたい。

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