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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年7月9日  年間第一四主日 A年 (緑)
見よ、あなたの王が来る。……高ぶることなく、ろばに乗ってくる(ゼカリヤ9・9より)


エルサレム入城 オットー3世朗読福音書 ミュンヘン (バイエルン国立図書館 10世紀末)


 きょうの福音朗読箇所は、マタイ11章25−30節。「天地の主である父よ」から始まる前半は、父への祈り(27節まで)。そこから「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい」(28節)に始まる、人々へのメッセージへと続く。そのような内容に対して、今回、表紙絵に掲げたのはイエスのエルサレム入城の図である。マタイ福音書でこの入城が物語られるのは21章1−11節であるのに、なぜ、きょうの絵に掲げたか。ポイントは福音朗読主題句「わたしは柔和で謙遜な者」(マタイ11・29より)にある。
 この主題に基づいて、第1朗読の箇所が選択・配分されている。そこは、ゼカリヤ書9章9−10節。朗読主題句は「見よ、あなたの王が来る。彼は高ぶることがない」。これのもとの9節を全文引用すると「娘シオンよ、大いに踊れ。娘エルサレムよ、歓呼の声をあげよ。見よ、あなたの王が来る。彼は神に従い、勝利を与えられた者、高ぶることなく、ろばに乗って来る、雌ろばの子であるろばに乗って」(9節)である。救い主である王は「高ぶることがない」方、すなわち謙遜な方である、という主題において、ここは「わたしは謙遜な者」という福音の中のイエスのメッセージと呼応している。
 このゼカリヤ書の箇所は、まさしくエルサレム入城を物語るマタイ21章5節で次のような形で引用される(今年A年の受難の主日で、枝の行列の福音朗読箇所に含まれる)。「シオンの娘に告げよ。『見よ、お前の王がお前のところにおいでになる。柔和な方で、ろばに乗り、荷を負うろばの子、子ろばに乗って』」(マタイ21・5)。ゼカリヤ書の(ヘブライ語の)本文と完全に同じではないのは、この福音書の引用は旧約聖書のギリシア語訳(七十人訳聖書)に基づくからである。こちらのほうは、やって来る王が「柔和な方」となっている。きょうの福音の中のイエスのメッセージ「わたしは柔和で謙遜な者」という表現は、ゼカリヤ書のヘブライ語本文にもギリシア語訳本文にも関連付いていることがわかる。
 イエスは、その生涯の初めから救い主である。それは、マタイが物語るイエスの誕生においても示されていた。そうであるならば、イエスはつねに柔和で謙遜な方である。そのことが、きょうのメッセージの中では直接に言明され、人々を「わたしのもとに来なさい」(マタイ11・28)、「わたしの軛(くびき)を負い、わたしに学びなさい」(11・29)と、呼び招くものとなっている。柔和で謙遜な救い主である王としての姿が象徴的に現れたエルサレム入城の図を、きょうのメッセージと結びつけて鑑賞する意味は十分にあろう。
 『オットー3世朗読福音書』のこの挿絵は、上の部分に、ルカ福音書だけが伝える徴税人ザアカイのエピソード(ルカ19・1−10)を描き込んでいる。その他、入城の描写の要素はかなりデフォルメされている。マタイの叙述で群衆は自分の服を道に敷く(マタイ21・8)のだが、ここでは、下段の二人の男がそれを振りかざしてイエスを歓呼して迎える動作で表現している。また左側には、ペトロを先頭にする四人の弟子がイエスを仰ぐ形で描かれている。イエスの姿は、黄金色を背景としたドーム型空間の中央に描かれ、王としての尊厳に満ちている。左手で抱える巻物は神のことばの象徴。上段左や下段中央に描かれる不思議な形をした木は、この時期(10-11 世紀)の写本画ではしばしば、神の国あるいは新しい永遠のいのちの象徴である。屋根で囲まれたこの地上空間に、神の栄光(金色)が充満しつつある景色が表現されている。救い主イエス・キリストへの賛美が鮮やかに表現されている。
 エルサレム入城の際、イエスは、「ダビデの子にホサナ。主の名によって来られる方に、祝福があるように。いと高きところにホサナ」(マタイ21・9)と賛美されるが、この歌はミサの中で「感謝の賛歌」の後半に歌われる句であることはご存じのとおりである。きょうの福音朗読のイエスのメッセージ「わたしは柔和で謙遜な者だから、わたしの軛を負い、わたしに学びなさい」(11・29 )は、実際には、受難の道を歩むイエスに従うことへの呼びかけであったともいえる。この呼びかけがいつもミサの中で繰り返されるとすれば、それは、ミサがいつも「柔和で謙遜な」主に従う生き方への招きだからであろう。

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