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聖書と典礼

『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2017年7月16日  年間第一五主日 A年 (緑)
ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで…… (マタイ13・8より)

種蒔く人  ステンドグラス イギリス カンタベリー大聖堂 1200年頃

 ステンドグラスに描かれた種蒔く人。きょうの福音朗読箇所(マタイ13章1−23節=長い場合、13・1−9節=短い場合)に出てくる有名な譬え話にちなんでいる。この話はいくつか注目すべき点がある。それは長い場合の朗読をみると、わかるように、譬え話そのもの(マタイ13・1−9)のあとに、譬えを用いて話す一般的理由の説明(13・10−17)があり、そして種蒔く人の譬え自体の解説(13・18−23)で結ばれるという内容だという点が一つである。譬えを用いて話す一般的理由は、どの譬えにも当てはまると考えれば、この譬え話は、いわば代表例にあたるものと考えられる。もう一つ、注目すべきは、このような内容がほとんど同じような流れで、マルコ4章1−20節、ルカ8章4−15節に含まれている。マルコがもっとも早く書かれた福音書だとすれば、それをマタイもルカも共有して伝えているということになる。
 さらに、もう一つ、重要な注目点は、譬えを用いて語る一般的理由を説明するくだりで出てくる「天の国の秘密」(マタイ13・11 )ということばである。マタイは神の国のことを天の国と語るので、並行箇所であるマルコ4章11節やルカ8章10節では「神の国の秘密」という句で出てくる。
 この「秘密」ということばに注目したい。それは、ステンドグラスや聖書挿絵など、聖書の内容を絵で表すという営みの意味にもつながってくるからである。
 まず、この「秘密」のギリシア語原語はミュステーリオンである。ここでは「秘密」と訳されているが、「神秘」「秘義」「奥義」とも訳すことができる。この「秘密」という単語が神の国のことをことばで直接教えるか、譬えで教えるかの違いを解く鍵として使われている。この「秘密」を悟ることを許されている人には、直接のことばで説明し、「許されていない人」には、譬えで語るという理由づけである。果たして、弟子たちがイエスの直接の教えによってただちに悟ったかどうかは明確ではないだろう。イエスの十字架と復活を体験し、さらに聖霊を授けられて本当の意味で悟っていく訳だからである。イエスの教えは、譬えであっても、直接のことばによる教えであっても、それを悟れるかどうかは、その人が信仰をもって受け入れられたかどうかにかかっていくように思われる。福音書が記しているのは、悟れた人と悟れなかった人が両方いた事実であり、逆に、福音書となってそれらがまとめられているのは、初めは悟れない人もだんだんと悟っていけるように招くためではないかと思われる。
 実は、キリスト教の美術、特に聖書画(ステンドグラス)の役割も、そこに関係している。ただ単に聖書の教えや出来事を図像化、視覚化して表現するということに尽きるのではなく、そのような視覚表現を通して、聖書が、ひいては、イエス・キリスト自身が告げ知らせる「神の国の神秘」に、やはり、人々を招こうとしているものなのである。今回は、ステンドグラスの画像の個々の説明は略し、こうした造形表現全般の意味を考えることに徹したい。
 キリスト教美術史から教わることは、聖書の内容を図像化するために、古代教会から中世前期までは、立体像を避け、平面的造形(壁画、写本挿絵、ステンドグラス)を主にしていたことである。それまでは彫像であっても平面的な浮彫が主だった。三次元立体像は、異教の神々の像のかたちであって、キリスト教の真理を描くためのものではないという判断や感覚が中心だったからといわれ、平面的造形を通して、たえず「向こう側」からの教え、超越的な神からの教えを受けとめることを重視していたからだという。目に見える図像・画像の背後に、目に見えない神の存在や主キリストの永遠の臨在を感じ取ることが礼拝と結びつく造形の役割だったのである。
 ちなみに、この「秘密」と訳されているミュステーリオンは、パウロ的な教えの中では(たとえばローマ16・25)では、「世々にわたって隠されていた、秘められた計画」というように「秘められた計画」と訳されている。すなわち、神のみ旨の中にあった、救いの計画を指す用語である。それが、キリストによって実現されている、それこそがまさに福音であるというメッセージになる。種蒔く人の譬えをはじめとする譬えも、すべてのこの神の計画、すなわち、神の国の実現、主イエス・キリストの真理をいつも指し示している。今回のステンドグラス画像も、その陰影と配色が種蒔く人の譬えの奥にあるメッセージへと我々を招いている。

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