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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年1月1日  神の母聖マリア  (白)
マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた(ルカ2・19より)

聖母子     
聖書写本挿絵   
スペイン、ビク教区博物館 1263年頃

 母マリアと幼子イエスが親しく向かい合う姿が印象的な聖書写本挿絵であろう。聖書写本の片隅の小さなスペースに、最小限の要素によって描かれている。マリアは衣も被り物も簡素ではあるが、女王(天の后)のイメージは保たれ、女王の座にある尊厳ある神の母マリアが描かれている。その座は、建物のイメージと樹のイメージが重ねられているところには、簡素ながらも、神の家、神の国、そして永遠の生命の次元を思わせるに十分である。
 イコンの聖母子の伝統では、幼子に親しくほおずりをする型もあるにせよ、おおむね幼子といえども救い主としての尊厳を保ち、正面を向いている型が多かった。西方のキリスト教美術の中で、9世紀から中世を通じて、玉座の聖母子という構図が主流であった。聖母は女王の様相で正面を見つめ、幼子は小さいながらも王の威厳を示している。それに対して、一般に、14世紀頃から母と子の間の人間的な情感を強めて聖母子を描き出すタイプの作品が多くなる。聖母の姿も、冠など女王としての表象が消え、質素な身なりの庶民的な面持ちの女性となる。この写本画は13世紀後半のものだが、すでにその流れに向かっているもののようである。ここの幼子も、母親にすがりきっているかぎりは、そのように人間的な幼子の雰囲気があるが、左手と右手の構えは、尊厳ある主の祝福のしぐさをまだ残しているところが興味深い。いずれにしても、母マリアの迷いのないイエスに対するまなざしと、それにしっかりと対応している幼子のまなざしが、緊張感にあふれている。我々の目を釘付けにしないだろうか。幼子の胸に当てられているマリアの右手の指にも繊細な動きを描き込んでいる写本画絵師の集中力をも思い起こしてみたい。
 さて、神の母聖マリアの祭日は、さまざまな意味合いが含まれている。典礼暦の中で際立っているのは、12月25日の主の降誕から八日目であること。このことから、ローマ典礼の中では、最初のマリアの祭日であったという。ローマが12月25日という降誕祭の発祥の地であることから、1月1日が際立ったものとして祝われていたのであろう。他のマリアの祝祭日が生まれる前からの唯一のマリアの祭日であった。やがて、マリアの祝祭日が増えていくなか、またこの日に読まれるルカ福音書の朗読箇所(2・16−21)の末尾にあるとおり、「八日たって割礼の日を迎えたとき、幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である」(21節)ことから、降誕の八日目は、この記述の前半に基づいて「主の割礼の祝日」として、第2バチカン公会議前までの典礼暦で祝われていた。しかし、本来のマリアの祭日として復興するにあたり、「イエス」(「神は救う」という意味)という命名のほうが、福音書の文脈で重要な主題であることを踏まえ、降誕の八日目、神の母聖マリアの祭日には、「イエスの聖なる名前の命名も合わせて記念する」とされている(『典礼暦年と典礼暦の一般原則』35ヘ参照)。近年、1月3日が伝統的に「イエスのみ名」の記念日であったことから、再びこの主題を固有化して、1月3日がその任意の記念日となったが、福音書に基づけば降誕の八日目がイエスの命名の日であること、それをこの1月1日に思い起こすことは依然として大切だろう。
 いずれにしても神の母聖マリアの祝日は、そのみ胸に抱かれている幼子イエスがいつもいることを一緒に考える意味で、母マリアのもとで、「イエス」(救い主)として育ち始めている姿を思い、このような聖母子の絵を通して黙想を広げていきたいと思う。
 それは、第2 朗読のガラテヤ書4章4−7節の冒頭「時が満ちると、神は、その御子を女から、しかも律法の下に生まれた者としてお遣わしになりました」(ガラテヤ4・4)ということを思い起こすことでもあり、さらには、その救い主である御子の生涯がもたらしてくれた救いが完成する時を待ち望むことでもある。それは、主イエス・キリストの生涯の神秘の中で迎える新しい年への神の祝福(第1朗読民数記6・22−27参照)を受けとめることになるだろう。

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