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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年1月21日  年間第3主日 B年 (緑)
この二人も……、イエスの後について行った (マルコ1・20より)

ゼベダイの子ヤコブとヨハネの召命  
フレスコ画 マッテオ・ジョヴァンネッティ作
フランス アヴィニョン 教皇宮殿サン・ジャン礼拝堂

 14世紀半ばに活躍したマッテオ・ジョヴァンネッティ(生没年1300頃〜1370頃)作のフレスコ画。アヴィニョンの教皇宮廷に招かれ、いくつかの礼拝堂の壁を飾るフレスコ画を遺した。表紙では時代記載を欠いたが、1347−48年頃の作品という。イエスの最初の弟子たちの召命の位置場面、とくにシモン(ペトロ)とその兄弟アンデレ(兄と考えられている)に続いて、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネに対する召命を描く、比較的珍しい絵画である。イエスの衣服については剥落が目立つが、その前にいてイエスを見つめているのがシモン(ペトロ)、イエスの背後にいるのがアンデレと考えられる。イエスが右手を動かし「呼んでいる」前の二人がヤコブとヨハネ。奥の側で髭を生やしているのがヤコブで、手前にいる髭のない、いかにも若者らしい姿をしているのがヤコブの弟とされるヨハネだろう。これら最初の弟子たちの召命に関するきょうの福音朗読箇所、マルコ福音書1章14〜20節の中の16〜20節は簡潔だが、そこに含まれる意味合いは深い。
 ゼベダイの子ヤコブは12使徒の一人で、ここで弟ヨハネとともにイエスに呼ばれ、弟子となる。マルコ3章17節では(しかもここだけで)、イエスは、「この二人には、ボアネルゲス、すなわち、『雷の子ら』という名を付けられた」という言及がある。この名の由来や意味について諸説があるようだが、宣教、特に神のことばを告げる預言の使命を期待したという解釈がある(『新カトリック大事典』第4巻「ボアネルゲス」参照)。ヤコブは、12使徒の中の「アルファイの子ヤコブ」(マルコ3・18参照)と区別するために、「大ヤコブ」と呼ばれる。この大ヤコブは43/44年頃、ヘロデ・アグリッパ1世による迫害で剣に刺されて殉教する(使徒言行録12・1−2参照)。典礼暦では7月25日が祝日。6世紀のラテン語伝承『ヤコブの受難』に基づく有名なスペインの巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラはこの大ヤコブ崇敬の中心地である。
 弟ヨハネ、12使徒のヨハネは、教会では第4福音書の著者として伝えられ、12月27日に祝われる聖ヨハネ使徒福音記者である。
 マルコ福音書をたどっていくだけでも、ペトロとヤコブとヨハネの役割は重要である。ヤイロの娘の蘇生に立ち会うことを許され(マルコ5・37参照)、イエスの変容のときにも(同9・2参照)、またゲツセマネの祈り(同14・33参照)に同伴させられるのもこの3人だけである。使徒の頭ペトロが目立つだけでなく、続いてヤコブ、ヨハネがいつも先頭に出てくるところに、この二人の兄弟の重要性が感じられる。きょうの福音に示されるように、ペトロとアンデレの兄弟だけでなく、ゼベダイの子ヤコブとヨハネが続いて弟子になったとき、そこにキリストの教会の原型が生まれたといえるのだろう。
 この福音朗読箇所の短い言及によっても、イエスの思い、呼ばれた弟子たちの思いがさまざまに想像される。イエスの呼び出しのことば「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」(マルコ1・17)に対して、シモン(ペトロ)とアンデレは「すぐに網を捨てて従った」(同1・18)。イエスのことばの絶大な力、「人間をとる漁師」という機知に富んだ表現の魅力が、二人の対応の「すぐに」という描写の中に反響していよう。ヤコブとヨハネについては、彼らが「舟の中で網の手入れをしているのを御覧になると、すぐに彼らをお呼びになった」(同1・19−20)と、今度は、イエスが「すぐに」呼ぶ。この「すぐに」の応酬が興味深い。ペトロとアンデレにしても、彼らが網を打っているところをイエスは御覧になって、「すぐに」呼んだのであろう。ヤコブとヨハネは網の手入れをしているところ。このように、漁をしている最中の兄弟と、漁に出るための準備の仕事に勤しんでいる兄弟への召命。それは人間をとる漁において欠かせない仕事の暗示もあるのだろうか。いずれにしても、彼らは「すぐに」(網を捨て、あるいは父や仕事仲間を舟に残して)イエスに従う。表紙の絵が映し出すのは、イエスに従い、その行動に同伴するペトロとアンデレ、イエスのことばを正面から受けとめるヤコブとヨハネという、4人の弟子たちの真摯な姿である。彼らのイエスとのかかわり方の様相に目を向けるのも、福音書の味わいとなる。ヤコブとヨハネについても、この絵をきっかけに探究してみよう。

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