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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年2月11日  年間第6主日 B年 (緑)
主は豊かなあがないに満ち、いつくしみ深い (答唱詩編 答唱句)

陰府に降り、アダムとエバを引き上げるイエス
ビザンティン・イコン 
マケドニア オホリッド スヴェ−ティ・クリメンタ教会 14世紀

 きょうの福音朗読箇所は、マルコ1章40−45節の、重い皮膚病を患っている人をいやす所である。ギリシア語で「レプラ」と記される病気は今日でいうハンセン病だけでなく、レビ記13章2節でいわれる「皮膚に湿疹、斑点、疱疹」ができる病気を広く指すものだったようである(ヘブライ語「ツァラアト」)。それらを調べて祭司が「汚れている」と言い渡されるものが特別に「重い皮膚病」とされていた。そして「重い皮膚病にかかっている患者は、衣服を裂き、髪をほどき、口ひげで覆い、『わたしは汚れた者です。汚れた者です』と呼ばわらねばならない』、また『その人は独りで宿営の外に住まねばならない』」(レビ13・45)とされていた。旧約の時代のこの場合、祭司が医師の役割も果たしていたようであり、この規定は医療的隔離の意味もあったであろう。その祭司が患者の治癒・回復を確認して「患者は清い」と言い渡すことは、単なる医療発言にとどまらず、共同体への復帰を意味するものであった。そして、この復帰のためには「清めの儀式」を経なければならず、レビ記14章には、そのための儀式や献げ物について詳しい規定がある。こうした「汚れ」としての病に対する見方や、共同体からの隔離の規定には、そもそもは医療的予防的意味もあったであろうが、その患者に対する差別をも生み出したことは想像に難くない。
 その律法規定やそれから派生していた差別状況をも背景とした上で、きょうの福音朗読箇所がある。今年の年間第4主日、第5主日と続けて述べられてきたイエスのいやしの業(わざ)は、ここで重い律法規定のもとにあった患者に対して発揮される。イエス自身のみ心にすがり、清めを求める人を「深く憐れんだ」イエスは「たちまち」その人を清くする(1・41−42)。神にしかできないことをイエスは行ったのだが、さしあたりは律法の規定に従うよう患者に言う。イエスの意向では、自らの神的権威はまだ秘されているべきであったのだ。しかし、いやされた人はすでにそのことを告げ知らせ始めるというのがここの内容である。
 ところで、この日の第1朗読に『ミサの朗読配分』規範版では、文字どおりの前提であるレビ記の箇所(13・1−2 、44−46)が指定されているが、日本の教会では特例として創世記3章16−19節を指定している。病苦の根源にある人類の罪とその結果として与えられた苦しみについての教えを含む箇所である。黙想指導的な意図もあって選ばれたものなのであろう。そこで、この黙想を広げるための一助として、表紙絵では「イエスの陰府(よみ)降下」を画題とするイコンを掲げた。イエスは、十字架での死ののち、陰府に下り、アダムとエバをはじめ人類をいのちへと引き上げることを内容とする。これは、イエスが十字架上で息を引き取ったとき、墓で眠りについていた人たちが生き返ったというマタイ27章50〜52節や使徒言行録2章24−28節、とくに1コリント書15・20−22節「しかし、実際、キリストは死者の中から復活し、眠りについた人たちの初穂となられました。……アダムによってすべての人が死ぬことになったように、キリストによってすべての人が生かされることになるのです」。そして、ヘブライ書2章14−18節などがもとになり、教父の中で深められていった信仰理解である。
 このヘブライ書2章17節では「イエスは、神の御前において憐れみ深い、忠実な大祭司となって、民の罪を償うために、すべての点で兄弟たちと同じようにならねばならなかったのです」とある。イエスの十字架の意味を説き明かすものであるが、この「憐れみ深い大祭司」としての姿こそ、きょうの箇所に登場する患者を「深く憐れんで手を差し伸べた」イエスの姿なのではないだろうか。このイコンの中の白い衣のイエス、その画面の中央にあって、天と陰府を斜めに結ぶようにして、アダムに手を差し伸べるイエスの姿に、きょうのイエスの姿を味わってよいだろう。こうして、第1朗読と福音朗読の内容は、イエスの死と復活の出来事において結びつく。イエスの「何も話さないように」との注意(マルコ1・44)は、自らの死とその意味を意識したものだったはずである。その注意にもかかわらず、イエスによる治癒・清めを告げ知らせた人の行いは、すでに復活の宣教の先駆けとなっているのだろう。

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