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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年2月25日  四旬節第2主日 B年 (紫)
あなたは、自分の独り子である息子すら、わたしにささげることを惜しまなかった  (創世記22・12より)

イサクをささげようとするアブラハム 
ローマ ヴィア・ラティーナのカタコンベ  
4世紀

 先週の解説でも述べたように、四旬節の主日ミサの聖書朗読は、第1朗読は、旧約聖書が伝える「救いの歴史」、言い換えれば「契約史」がいわばダイジェストで展開される。B年では、第1主日のノアの契約の話に続いて、第2主日はイスラエルの民の祖アブラハムに関する話である。福音朗読と使徒書は共にキリストの過越の神秘に迫っていく形で主題的に選択されているが、根本は、いつもキリストの過越の神秘であるというところからは、第1(旧約)、第2(使徒書)、福音朗読は深く連動していることもたしかである。きょうの第1朗読(創世記22・ 1−2 、9a、10−13、15−18)が、アブラハムが愛する独り子イサクを焼き尽くす献げ物(すなわち、いけにえ)としてささげることを神から命じられたという出来事の顛末である。この「献げ物」、「ささげる」ということが、さらに第2朗読(ローマ8・31b −34)、福音朗読(マルコ9・2−10)をもつなぐテーマであることを考えることが大切である。
 表紙絵は、アブラハムがイサクをささげようとする場面。このテーマは、実にキリスト教美術初期からの重要なテーマで、このように4世紀頃のカタコンベ壁画や石棺彫刻でもすでに題材として登場している。この壁画では、下の段は、アブラハムたちについて来て、ろばと一緒に待っているようにいわれた二人の若者のうちの一人とろば(創世記22・3−5参照)が描かれている。上の段は、朗読でも読まれるクライマックスの創世記22章10−13節のあたりである。アブラハムが、手を伸ばして刃物を取り、息子を屠ろうとしたところだろう。10節によれば、イサクを祭壇のたきぎの上に載せたとあるのだが、ここでは、後ろ手を縛られてひざまずいているのがイサクである。これだけでも、動けなくして刃物で屠ろうとしている様子は十分に描かれている。そして、モーセは刃物を振りかざしながら、何者かに呼び掛けられて、後ろを振り向いているという瞬間。そして、(向かって)左端に描かれているのは、代わりにささげられることになる雄羊と思われる。
 このエピソードに関しては、教父の解釈も多様であるようだが、一般的には、オリゲネスやエイレナイオス(イレネウス)のように、献げ物となったイサクに受難のキリストを、息子をささげるアブラハムに父である神を見るという見方で解釈されてきたというが、きょうの三つの朗読のつながりをもとに考えていくと、そうではない側面も見えてくる。それは、三つの朗読を関連づける文言に注意するときである。創世記の中でイサクを表現する文言「あなたの息子、あなたの愛する独り子イサク」(22・2)、「自分の独り子である息子」(22・12、16)という表現は、福音朗読箇所で変容したイエスについて雲の中から声が聞こえ、「これはわたしの愛する子」とイエスのことが呼ばれる。そのかぎりでは、イサクはイエスの予型のようである。するとアブラハムは父である神を意味していると解釈しているのだろうか。そのようにして第2朗読(ローマ8・31b−34)を見ると、「わたしたちすべてのために、その御子をさえ惜しまず死に渡された方」(32節)として父である神のことが言われているので、たしかにアブラハムに父である神を見るのは適当であるようにも思えてくる。しかし他方、第1朗読の末尾(創世記22・18)では「地上の諸国民はすべて、あなたの子孫によって祝福を得る。あなたがわたしの声に聞き従ったからである」とあり、アブラハムは信仰の従順によって祝福される人類の父である側面も重要である。これと福音朗読の「これはわたしの愛する子。これに聞け」(マルコ9・7)が響き合う。神の御子イエスへの信仰を呼びかける御父の声である。
 そうしてみると、アブラハムの姿には、二つのことが映し出されているようである。一つは御子を惜しまずにすべての人の救いのためにささげられた父である神、他方では、神の命に従順に聞き従う、神の民となるべき人類の模範である。そう見ると、アブラハムがイサクをささげようとした出来事を通して、この二つの側面が一つに結ばれて一つのメッセージとなっている。すなわち、御子を与えてくれた御父、そして御父の意志に従った御子キリストに対して、我々が自分のもっとも愛するものを惜しみなくささげるほどの従順をもって生きるようにとのメッセージである。きょうも表紙絵と照らし合わせながら、三つの朗読を合わせて味わうとき、思いがけないほどに黙想が広がってこよう。

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