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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年3月18日  四旬節第5主日 B年 (紫)
一粒の麦が地に落ちて死ねば、多くの実を結ぶ(福音朗読主題句 ヨハネ12・24より)

十字架降下(部分)   
フレスコ画 イタリア 
アクイレイア大聖堂地下聖堂 12世紀

 きょうの表紙絵は、キリスト教美術でも重要な画題となっているイエスの「十字架降下」。十字架からイエスの遺体が降ろされ、引き取られていく場面を描くものである。これについて述べているのは、各福音書で「墓に葬られる」と見出し(新共同訳)が付けられている箇所である。マタイ福音書27章57−61節、マルコ15章42−47節、ルカ23章50−56節、ヨハネ19章38−42節。共通に登場する人物はアリマタヤ出身のヨセフであり、マタイ、マルコ、ルカでは、この人物だけが遺体を取り降ろす。ヨハネは、ニコデモも一緒に遺体を受け取ったとなっている(19・39-40 )。どの福音書も、それに続く墓に葬る場面で女性たちへの言及があり、マタイでは「マグダラのマリアともう一人のマリア」(27・61)、マルコでは「マグダラのマリアとヨセの母マリア」(15・47)、ルカでは「イエスと一緒にガリラヤから来た婦人たち」(23・55)、ヨハネはその部分では婦人への言及はない。この場面を描く絵の登場は、西方ではカロリング朝(8世紀後半〜 9世紀)、オットー朝(10-11 世紀)の聖書写本画で、東方でも9世紀以降という。
 12世紀のこのフレスコ画では、イエスの遺体引き取りの主たる人物としてアリマタヤのヨセフが描かれており、その右下に描かれているのはヨハネ福音書で同伴が言及されているニコデモと思われる。注目すべきは、アリマタヤのヨセフとともに、あるいはヨセフからイエスの遺体を受け取り、ほほに接吻している母マリアが描かれていることである。左側には、共観福音書でさまざまに言及されている女性たちが描かれている。母マリアの言及は、ヨハネ福音書19章25−27節における母(マリアとはいわれていない)と「愛する弟子」についての言及が背景にありつつ、西方のマリアに関する絵画の中で、マリアのイエスに対する恭順のこもった深い愛情を表現する潮流が強まっていたことを受けている。イエスの十字架の出来事への礼拝心から生まれる画題にマリア崇敬の動機が結びついている例といえよう。
 さて、福音書のこの場面は、実際の典礼における聖書朗読では、聖金曜日に読まれる受難の朗読(ヨハネ18・1〜19・42)の終わり頃で読まれるところである。きょうの福音朗読箇所に含まれるイエスの教えのことばは、自らの十字架での死の意味を説き明かしていると思われる。それらのことばを味わうための情景として、この十字架から取り降ろされる場面を掲げてみた。一粒の麦が「死ねば、多くの実を結ぶ」(ヨハネ12・24)と告げられたその一粒の麦に、十字架での死をとおして自らがなっていく。十字架上で息を引き取り、遺体が取り降ろされ、墓に葬られるという、この一人の人の死と埋葬が、いまや「人の子が栄光を受ける時」(ヨハネ12・23)の始まりとなる。
 イエスはそのような自らの死に従うことを弟子たちに求めている。「自分の命を愛する者は、それを失うが、この世で自分の命を憎む人は、それを保って永遠の命に至る。わたしに仕えようとする者は、わたしに従え」(同12・25−26)。このことばは、マルコ8章34−35節と重なる。「わたしの後に従いたいと思う者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのため、また福音のために命を失う者は、それを救うのである」(並行箇所マタイ16・24−25;ルカ9・23−24)。これらを見ると全福音書を通じて一つのメッセージが響いてくる。
 この十字架降下から墓への葬りに続いて復活がくる。すでに復活の栄光は始まっているともいえる。福音朗読箇所の中で天からの声が告げる通り「わたしは既に栄光を現した。再び栄光を現そう」(ヨハネ12・28)。そして、イエスも告げる。「わたしは地上から上げられるとき、すべての人を自分のもとへ引き寄せよう」(同12・32)。ヨハネ福音書は、すべてを十字架と復活の神秘の中で見つめあかししているようである。その1章でも「言(ことば)は世にあった。世は言によって成ったが、世は言を認めなかった。言は、自分の民のところへ来たが、民は受け入れなかった」(1・10−11)とあるが、きょうの福音朗読箇所の「今こそ、この世が裁かれる時。今、この世の支配者が追放される」(12・31)と見事に響き合う。十字架降下の絵は、人となった神の言(ことば)が世にあった命を取り去られ、神の子として栄光を十全に輝かせ始める、その序章であるといえよう。

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