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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年6月10日  年間第10主日 B年 (緑)
お前の子孫と女の子孫の間にわたしは敵意を置く(第一朗読主題句 創世記3・15より)

神の前のアダムと女  聖堂扉の浮き彫り
ドイツ ヒルデスハイム 聖ミカエル修道院 
1015年頃

 B年の年間第10主日が登場するのは、1997年以来のことである。貴重な機会ともいえるので、この日の聖書朗読全体を眺めることにしたい。表紙は、第1朗読の創世記3章9−15節にちなんで、罪を犯したアダムと女(ここではエバと名付けられていない)に神は、のろいのことばを告げるという場面を描く浮き彫りを掲げた。造形作品としては、神自身が描かれていること、アダムも女もかなり写実的に描写されていること、その姿勢も身をかがめるようにして、なにか自分の罪を認めてへりくだって告白しているように見えること、アダムと女の間には、実を取って食べるなと命じられていた木、そして女の足もとでは蛇がはっきりと描写されているなど、創世記のこの場面を忠実に反映していることが窺える。
 さて、この箇所は、素直に自分の行ったことを認め、告白した、アダムと女を前にしての神の重要な宣言が語られている。蛇には「あらゆる家畜、あらゆる野の獣の中で呪われるものとなった。お前は、生涯這いまわり、塵を食らう」(創世記3・14)と最もひどい屈辱を宣告する。その次のことば「お前と女、お前の子孫と女の子孫の間にわたしは敵意を置く。彼はお前の頭を砕き、お前は彼のかかとを砕く」(15節)は、表現はなかなか難しいが、蛇で象徴される人を誘惑するもの、福音朗読箇所で言及されるサタンと全人類の間に敵意が置かれ、戦いがなされることが予告されている。
 敵意と戦いの予告ではあって、決して、人類がサタンに負けてしまうという予告ではなく、むしろ、戦いの果ての勝利が暗示されているといわれる。そのため、この箇所は、古来、罪に堕ちた人類に対する救いの希望の告知、最初の救いの約束として、「原福音」と称されてきた。福音書と旧約聖書を深く対照させながら読解してきた教父たちの解釈の成果である。
 まさにきょうの福音朗読箇所であるマルコ福音書3章20−25節では、イエスがサタン(ヘブライ語で「敵対者」の意味。いわゆる悪魔や悪霊を含む)の滅びを告げるところである。マルコの文脈では、イエスはすでに荒れ野でサタンの誘惑を受けたが、それに打ち勝ったことが暗示される(1・13)。そして、福音宣教を始めたのち、汚れた霊に取りつかれた男(21−28節)、多くの病人(29−34節)、重い皮膚病の人(40−45節)、中風の人(2・1−12)、手の萎えた人(3・1−6)をいやすなど広い意味で悪霊の働きと考えられていたものから人々を解放していく。イエスの生涯は、原福音によって予告されたサタンとの戦いに打ち勝っていく救い主の到来であったことが、福音書全体を通してあかしされていく。イエスの十字架がその頂点にあることはいうまでもない。もちろん、このイエスによる救いの出来事で、すべてのサタンの誘惑、罪と死の存在は、打ち勝たれたとはいっても、今度はそのイエスに信じ、ついていく人々や被造物すべての歩みが新たに始まる。第2朗読の使徒パウロの手紙(二コリント4・13〜5・1)は、まさにそのように主イエスの罪や死に対する勝利(復活)を信じる人間が直面する艱難(かんなん)に言及しながら、「内なる人」が日々新たにされていくという表現で語られている(4・16)。
 もちろん、使徒だけでなく、信者であればだれでも、つねに御父と主イエスに導かれ、救いの約束に満たされた中での「戦い」の中にある。ミサは実はまざまざとその状況を映し出しているといってもよい。「回心の祈り」からの始まり、聖体を拝領する前に唱える「主の祈り」の「わたしたちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください」。そしてそれに続く「副文」と呼ばれる祈り「いつくしみ深い父よ、すべての悪からわたしたちを救い、現代に平和をお与えください。あなたのあわれみに支えられ、罪から解放されて、すべての困難にうち勝つことができますように。わたしたちの希望、救い主イエス・キリストが来られるのを待ち望んでいます」「国と力と栄光は、限りなくあなたのもの」が、まざまざと信仰の状況というものを示している。きょうの福音、第1朗読の創世記、第2朗読の使徒書もこのように見るとミサの祈りに直結している。表紙作品の場面は、単に過ぎ去った出来事の描写というわけではなくなる。神の前にへりくだるアダムと女の姿勢は、我々自身の心の影(反映)にもなりうるのではないだろうか。

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