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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年7月1日  年間第13主日 B年 (緑)
子供の手を取って、「タリタ、クム」と言われた(マルコ5・41より)

ヤイロの娘をいやすイエス
モザイク イスタンブール
カーリエ博物館 14世紀

 このモザイク作品の所蔵先に関して興味深い歴史事情がある。文献資料では「カリア・ジャミイ」や「カハリエ・ジャーミー」など、イスラム教のモスク名が所蔵先として紹介されることが多いが、現在はカーリエ博物館が所蔵先となっている。トルコのイスタンブールは、元来は、キリスト教を公認したローマ帝国のコンスタンティヌス大帝が、コンスタンティノープルとして建設した新首都であった。330年完成という。ボスポラス海峡に突き出た三角形のような岬に造られたこの首都の城壁近くに、6世紀、コーラ修道院が創建され、「救い主キリスト」に献堂された。この修道院は14世紀初めに大々的に改築され、その際、キリストの救いのみ業(わざ)やマリアの生涯を描く多くのモザイクで壁が飾られた。表紙に掲げたモザイクもその一部である。こうしてコーラ修道院はビザンティン絵画芸術の輝かしい拠点となった。しかし、まさにその14世紀、オスマン帝国(トルコ)の支配下に入った後、カハリエ・ジャーミーという名のイスラム教モスクに改造されて現在に至る。そこに所蔵されていたキリスト教芸術は、保存されて、現在は上述の博物館に収められているというわけである。
 さて、表紙のモザイクに描かれているのは、きょうの福音朗読箇所(長い朗読の場合の)マルコ5章21−43から、ちょうど短い朗読の場合の箇所にあたるマルコ5章21−24節、35節b−43で物語られるヤイロの娘のエピソードにあたる。その間には12年間出血の止まらない女のエピソードがある。この女がイエスの服に触れたことと、そこに示された信仰をイエスが認めて治癒が実現した(5・34参照)。このような治癒奇跡との関連でヤイロの娘の話を読むと、最後にイエスがこの少女の手をとって「タリタ、クム」(起きなさい)と告げることで、少女は起き上がって、歩き出す(5・41−42)。したがって一種の治癒奇跡かとも思われるが、話の流れとしては、特に病状が言及されているわけではなく、「死にそうです」(5・23)と言われていた会堂長ヤイロの娘が実際に「亡くなりました」(5・35)という状態になり、結局、「起き上がって、 歩きだした」(5・42)に至るわけで、治癒というより蘇生の奇跡といえるものとなっている。
 出血の女とヤイロの娘の話に共通しているテーマは「信仰」である。イエスはヤイロに対して「恐れることはない。ただ信じなさい」(5・36)と呼びかけ、おそらくは彼の信仰にこたえるようにしてイエス自身が有することばの力が働き、娘は再び起き上がるという流れになる。結果としての「奇跡」より、そのプロセスを引き寄せた信仰が重要なのだというメッセージがこの二つのエピソードの結合によって強く迫ってくる。マルコ福音書の続きの箇所6章1−6節(来週の主日の福音朗読箇所)では、イエスが故郷の人々の不信仰に驚くという内容であり、そこまでの文脈の根底に「信仰」が深い主題として流れていることがわかる。
 表紙絵のモザイクとマルコの叙述を照らし合わせてみよう。中心をなすのはヤイロの娘の手を取るイエスの姿で、この二人の向かい合う様子が根本に置かれていることがわかる。イエスのしぐさは繊細に表現されている。少女の右側、イエスに近い側にヤイロがいる。両手をイエスに向けて、全幅の願いと信頼を傾けている雰囲気が出ている。彼の後ろの緑の衣がおそらく母、さらに後ろには侍女らしき女性がいる。イエスの背後に顔がわかるように描かれている三人は、ペトロ、ヤコブ、ヨハネであることは明らかである。福音書の叙述では、死んだと思われていた少女を起こすという業(わざ)をする前に、家の中には少女の両親とその3人の弟子だけがいるようにされている。イエスに関する決定的な出来事が起こり、それは守秘されなくてはならないという原則がここに働いている。この3人の弟子ペトロ、ヤコブ、ヨハネだけが呼ばれる出来事として、すぐ思い出されるのは、マルコ福音書では9章2−13節で語られるイエスの変容の出来事である。変容の出来事はもちろんイエスの死と復活の予告のような意味があるが、ここのヤイロの娘のエピソードも、「起き上がり、歩きだす」というところに復活の意味が十分に暗示される。この娘が十二歳であったこと(5・42参照)、出血の女は、この病気に十二年間も苦しめられていた(5・25参照)というところから「十二」という数が印象深く響く。イスラエルの十二部族や十二使徒への連想から「神の民」の意味とのつながりにも、連想が及ばずにはいられない。

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