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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年9月2日  年間第22主日 B年 (緑)
わたしが命じるとおりにあなたたちの神、主の戒めを守りなさい(申命記4・2より)

十戒を受け、イスラエルの人々に伝えるモーセ  
グランヴァルの聖書 挿絵                
ロンドン 大英博物館 834 年頃

 「グランヴァルの聖書」は8世紀から9世紀にかけての、いわゆる「カロリング朝ルネサンス」による写本芸術の代表的作品の一つとされている。全頁大の挿絵が4面あり、(1)人間の創造、(2) 神から十戒をはじめとする律法を受け、長老らに教えるモーセ(表紙絵)、(3)荘厳のキリスト、(4) 黙示録による玉座のキリストの図がある。これらを通して、救済史の始まりと完成が展望されていることになる。
 モーセの場面は、出エジプト記19章から24章までの内容を踏まえている。このあたりを読んでみると、モーセの役割、すなわち、主である神と民の間を結ぶ仲介者としての働きが浮彫りにされる。
 19章から24章までを整理してみると、19章3-6節で「神のもとに」つまりシナイ山にモーセが登り、主が彼に民に告げるべきことを語る。7-8節でモーセがそれを民に告げると、民は 「主が語られたことをすべて、行います」と言う。9節で、民の言葉を取り次いだモーセに主はこう言う。「見よ、わたしは濃い雲の中にあってあなたに臨む…」。さらにモーセは民の言葉を取り次ぐ。その後も交互に続く。中でも20章2ー17節の神の言葉は「十の戒め」つまり「十戒」として有名である。これを筆頭に、20章22節から23章末尾までは律法が告げられている。契約に伴う根本的な律法という意味でここの部分には「契約の書」という表題が付けられている(『新共同訳』20章22節の前)。そして、いよいよ24章では契約の締結の場面となる。契約締結のときには、主の戒めと教えを石の板に記してモーセに授けられる(24・12)。
 表紙絵は神が濃い雲の中から姿を見せずに、右手だけでモーセに巻物を渡すというところで、シナイに到着して、モーセが山に登ってからのモーセへの十戒と律法の授与を表現しているものと思われる。この山には燃える火が描かれていることについては、「主の栄光はイスラエルの人々の目には、山の頂で燃える火のように見えた」という24章17節の記述がもとになっていよう。
 表紙絵の下の部分、モーセが民の代表者たち(長老か)に語っているところで抱えているのは石板のようでもある。そうすると、ここは、契約の書となった根本的律法を石板から読み、授けているというふうでもあり、シナイ契約の出来事まで含むということにもなる。全体として、この絵は19章から24章までを総合したものといってよいだろう。
 この絵は、主である神とモーセの対話の部分が上に、モーセと民(代表者で象徴される)のやりとりの場面が下に分けて描かれている。二つの空間は屋根によって分けられている。シナイ契約に際して、神と民との間にはなお隔絶が深かった。この事実についての民とモーセの意識が語られるのが20章19−20節である。民は、山が煙に包まれる有様(神の臨在のしるし)を見て恐れ、遠く離れて立ち(20・18)、そして、モーセに言う。「神がわたしたちにお語りにならないようにしてください。そうでないと、わたしたちは死んでしまいます」(20・19)。モーセはそれに対して、「恐れることはない。神が来られたのは、あなたたちを試すためであり、また、あなたたちの前に神を畏れる畏れをおいて、罪を犯させないようにするためである」(20・20)と告げる。いわば、神への「恐れ」が「畏れ」になるようにとの招きがある。神の隔絶(超越)と、モーセを通しての近づき(律法の授与)という両方向的な関係性が、こうして絶妙に物語られている。
 そして、「恐れることはない」という言葉は、福音書でイエスの口から何度も告げられている言葉であることを思い起こしたい。きょうの福音の中のイエスの語り口にも、そのような隔絶と近づきの両面が感じられる。「あなたたちは神の掟を捨てて、人間の言い伝えを固く守っている」(マルコ7・8)、「わたしの言うことを聞いて悟りなさい」(7・14)。しかし、モーセのような意味での仲介者の言葉ではなく、神自身の言葉のように響く。イエス・キリストは神と人との仲介者といわれるが、それは人間となられた神の子としての唯一無二のあり方である。その独特さを知る上で、モーセの存在とその働きは一つの重要な前提である。モーセについて学び知ることの意味がここにある。

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