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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年11月18日  年間第33主日 B年 (緑)
その時、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する(ダニエル12・1より)

大天使ミカエル  
イコン  
イタリア ピサ市立博物館 14世紀

 大天使ミカエルが登場する、きょうの第1朗読、ダニエル書12章1−3節にちなみ、この大天使を主人公とするイコンを掲げた。福音朗読箇所はマルコ13章24−32節で、終わりの日に起こる出来事の予告と、人の子(救い主キリスト)の到来を告げるもの。この箇所とダニエルの預言を重ね合わせながら、ミカエルとキリストについて考えてみたい。
 旧約聖書の中で大天使ミカエルが言及されるのはダニエル書である。その10章で「大天使長のひとりミカエル」(10・13)と言及されており、朗読箇所にあたる12章1節では、「その時(=終わりの時)、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する」(12・1)と神の民イスラエルの守護者として示される。ミカエルという名の意味が「誰が神のごとき」(だれが神のようであろうか)であるとおり、ほとんど神のような救い主として登場していることが興味深い。続く箇所では、「多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める」(12・2)という形で、死者の中からの復活が救いとして語られる重要な箇所となっている。イエス・キリストの死と復活による救いを証言する新約聖書の先駆となっている。眠りから目覚める人については選別がなされることも語られ、「ある者は永遠の生命に入り、ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる」(同)と告げられる。このあたりは、マタイ25章31−46節、ヨハネ黙示録20章11節−15節と直結する。
 このようなメッセージを含むダニエル書12章1−3節を福音朗読箇所のうちの前半マルコ13章24−26節と重ね合わせると、ミカエルが「人の子」すなわちキリストを前もって示す存在(予型)であることが明らかである。これら二つの箇所を重ね合わせて味わうには、やはりミカエルが言及されるヨハネ黙示録の箇所が参考になる。「さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや、天には彼らの居場所がなくなった。この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされたのである。」(ヨハネ黙示録12・7−9)ミカエルは、悪魔、サタンを最終的に打ち倒す天使のかしらとして表現されている。この点で、終末におけるキリストの到来を予兆させる存在である。
 さて、そのようなミカエルは、力強い戦士をイメージさせるだろう。しかし、キリスト教の絵画表現の中では、優美で高貴な青年(髭のない若い男性)、あるいは、少女の姿で描かれる伝統があった。10世紀〜15世紀の中世の傾向という。14世紀に描かれたこの表紙のイコンのミカエル像も、少女のような面影をしている。はっきりしないが、頭にはバンダナが見える。ただ衣は、高貴な戦士として、重厚な衣とマントを身につけ、足もとには赤いクッションがある。両側の翼には力がみなぎっている。
 左手に抱えているのは「インマヌエルのキリスト」と呼ばれるもの。子どものイエスの胸像を納めるメダイユである。「インマヌエル」とはいうまでもなく「神は我々と共におられる」を意味する名で、イザヤの預言(イザヤ7・14)を踏まえたマタイ1章23節で、イエスの名として示される。ミカエルがキリストをあかしする存在であることが明らかである。その左腕を覆うマントの端から天秤が下がり、その両方の器には人の姿がみえる。上述のダニエル12章2節で言及される永遠の生命に入る者と永久に続く恥と憎悪の的になる者が吟味される秤である。左側の人を引きずり降ろそうとしている黒い生き物は悪魔であるが、これをミカエルの右手に握られている槍が一突きしている。ダニエルの預言が告げる救い、ヨハネ黙示録の語る悪魔への勝利が、こうして巧みに描かれている。ダニエル書12章が告げるミカエルの姿から、以後、秤が造形表現におけるミカエルの付属定型(アトリビュート)となっていることも興味深い。
 たしかに「ある者は永遠の生命に入り、ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる」(ダニエル12・2)は、最後の審判に関することばであり、福音朗読箇所の中でも「人の子は天使たちを遣わし、地の果てから天の果てまで、彼によって選ばれた人たちを四方から呼び集める」(マルコ13・27)とあり、ある種の選別が告げられる。裁きや選びを強く感じさせることばの根底をなしているのは、永遠の命への力強い招きであり、それを求め、神のみ心にふさわしく応えることへの呼びかけにほかならない。

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