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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2018年12月23日  待降節第4主日 C年 (紫)
わたしの主のお母さまがわたしのところに来てくださるとは……(ルカ1・43より)

エリサベトとマリア  
挿絵 『ブーシコー元帥の時祷書』
パリ ジャックマール=アンドレ美術館 15世紀

 「あなたは女の中で祝福された方!」――マリアを迎えたエリサベトの言葉を彩る美しい情景。きょうの福音朗読箇所ルカ福音書1章39−45節にちなみ、まさにマリアのエリサベト訪問を描く中世末期の『時祷書』(つまり時課の祈り、聖務日課の書)の挿絵を掲げた。この時祷書が、「ブーシコー元帥の……」と呼ばれるのは、ジャン・ド・マングル 1366〜1421)という、通称ブーシコー元帥と呼ばれる人物に献呈されて、15世紀初頭に作製されたものだからである。作者として、ジャック・ケーヌという画家の名が研究者の間であげられているという(『新潮 世界美術辞典』新潮社、参照)。
 この優美な人物像、マリアのふくよかなお腹の描き方、エリサベトのマントの朱色、マリアのマントの群青色、天の色とのその同調、背景の植物や湖を彩るさまざまな濃淡の緑が美しい調和を醸し出す。二人の出会いを祝福するかのように天から降り注ぐ光まで、巧みで繊細な画法には唸らされる。マリアに随順する二人の付き人は、すでにマリアの女王としての尊厳をも想像させる。この作品が示すスタイルは、1400年前後半世紀ほどヨーロッパで盛んだった国際ゴシック様式といわれるものの一つ。イタリアの自然主義とフランスのゴシック様式が、アヴィニョン教皇時代(1305〜77年)に融合し、さらにそれがヨーロッパ各主要宮廷都市と交流して生まれた優美で洗練された趣が特徴となった様式を指す(『新カトリック大事典』研究社、参照)。
 この日の福音朗読箇所が放つ喜びと言葉のリズムを、この絵によって増幅させられつつ、ともに鑑賞できたらすばらしい。この箇所は、マリアのエリサベト訪問であると同時に、エリサベトの胎内にいる洗礼者ヨハネとマリアの胎内にいるイエスとの間接的な出会いであるところに深みと味わいがある。
 そして、エリサベトの告げる言葉「あなたは女の中で祝福された方です。胎内のお子さまも祝福されています」(朗読本文=新共同訳)は、現在の「アヴェ・マリアの祈り」で唱えられる言葉、「あなたは女のうちで祝福され、ご胎内の御子イエスも祝福されています」(現在のアヴェ・マリアの祈り)のもとである。
 待降節第4主日は、もっとも早くには12月18日、もっとも遅くには12月24日になるように、すでに降誕の喜びのうちに来る。C年のきょうの箇所は、御子はすでにマリアの胎内にあってこの世に到来しているのである。その意味深さを第1 朗読、第2朗読はさらに豊かに味わわせてくれる。第1朗読はミカ書5章1−4節a。ベツレヘム(ダビデ王の出身地)の中から「イスラエルを治める者が出る」(1節)として救い主の到来が予告される。「彼は立って、群れを養う。主の力、神である主の御名の威厳をもって」(3節)「今や、彼は大いなる者となり、その力が地の果てに及ぶ」(同)といった表現は、まさしくキリストにあてはまることになる言葉ばかりである。第2朗読のヘブライ書10章5−10節ではキリストが神の御心を行うために来られたことが強調される。それはすでに自らを神に献げたキリストの生涯全体を思う言葉ではあるが、その感動の中心は、まさに「世に来られた」(5節)ことにある。このようにして、イエスと名付けられるべき子の誕生(神の御子の到来)の意味が明確に告げられる。救い主の到来への待望が満たされる瞬間、それは、終末における第二の到来への待望の一層の充満ともなる。この待望を支え、御子を迎える喜びを絶頂にまで導くのは、エリサベトがいうところの「主がおっしゃったことは必ず実現すると信じた方」(ルカ1・45)であるマリアの姿勢、いうまでもなく、天使ガブリエルの「アヴェ・マリア」のお告げを受けたときの「お言葉どおり、この身に成りますように」(ルカ1・38)という姿勢である。
 主の降誕の神秘は、神のことばは必ず実現すると信じることの幸いへの招きでもある。

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