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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年3月17日  四旬節第2主日 C年 (紫)
「これはわたしの子、選ばれた者。これに聞け」(ルカ9・35より)

主の変容  
ノヴゴロド派イコン 
ロシア ノヴゴロド歴史建築博物館  15世紀後半

 イエスの光背をなす円形の色の層がとくに美しいイコンである。岩山の頂点に立つ真っ白い衣のキリストも美を超えた美、聖性の極致といえる。濃紺、深緑、青緑、水色と青と緑の濃度の違いがなす円形の光背は、聖霊、神のいのちの息吹に満ちている。その円形は完全を示し、色の層は深遠なるいのちを示す。
 四旬節第2主日の福音は、毎年主の変容の箇所であることはもう周知のことだろう(今年はC年なのでルカ9・28b-36)。四旬節第2主日に、この箇所が読まれるのには、いくつもの理由がある。まずこの出来事はマタイ、マルコ、ルカの3福音書のどれにおいても、最初の受難予告に続く位置に置かれている。すなわちことばによる受難予告が、今度はイエスの姿が変わるという出来事によって、なされるといってもよい。姿の変容は受難から復活への移り行くイエスの存在の変化を先取りして示すからである。ここで、イエスが地上から上っていく方というだけでなく、彼方から現れてくる神の子であることがまざまざと示される。
 その現れが、まさしく旧約の神の民の待望するところであったことを、イエスの両側にいるモーセとエリヤが示す。(向かって)右側で左手に律法の書を抱えているのがモーセ、左側の髪もひげも長い老人がエリヤである。旧約の神の民、シナイ契約に導かれるイスラエルの民の指導者モーセの姿は、イエス・キリストこそ、新しい神の民の導き手、主であることの示す存在として、イエスに向かって謙遜に礼拝する姿勢で示される。エリヤは預言者の象徴として、その再来が待ち望まれ、ある意味で救い主の予兆として望まれている存在である。そのエリヤも、イエスの前で拝礼している。ここに、イエスが新約の神の民の主、メシア(救い主)であることを二人の旧約の人物が証ししているのである。
 しかも、モーセもエリヤも、四旬節の理念のもとにあるイエスが悪魔の誘惑にあう40日と象徴的に関係している。モーセは、荒れ野の試練のあとイスラエルの民に再び十戒が授けられる前に、ホレブの山に上り、契約の板を受け取る前に40日40夜、山にとどまり、パンも食べず水も飲まなかった(申命記9・9節)。エリヤもやはり主の現存の前に回心をもって臨むための苦行をしている。ホレブで主に会う前に、み使いに助けられながら、40日40夜歩き続けてようやく主のみ前に臨むのである(列王記上19・8前後参照)。その出来事のときモーセもエリヤも主に出会えているのであるが、その出来事さえもひとつの予告で、今こそ彼らはまことの主に出会えているという光景がここにある。
 イエスの変容の出来事は、また、神の弟子たちに対する威厳に満ちた呼びかけの意味がある。「これはわたしの子、選ばれた者。これに聞け」(ルカ9・35)。変容の出来事の意味内容を明らかにする神の声が弟子たちに衝撃を与えている。激しい動きを伴う反応は、一種の宗教的自己離脱(恍惚)状態の意味合いもある。左端はヤコブで、真ん中がヨハネだろう。この二人のように、変容の主の姿から放たれる光に衝撃を受けて倒れ、おののいている姿を強調するのは14世紀からで、神的光の神秘についての瞑想の深まりを反映しているという。しかし、そこには普遍的なものがある。人はみなキリストと出会い、信仰に到達するために、何らかの強い回心体験をもつ。聖なる驚きやおののきは、やがて信仰の喜びを伴う、主に対する礼拝へと昇華されていく。四旬節は、そのように主との魂の深みにおける出会いを新たにし、礼拝者としての根源に立ち返ることが求められる季節である。
 このイコンには、もう一つ大切なまなざしがある。イエス、モーセ、エリヤの三者、下の三人の弟子、イエスを頂点とする岩山の三角など、至るところに「三」を意識しているところである。神の三位一体の生命、この永遠なるものへの思いを呼び起こしてやまない。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

私たちは文章だけにとらわれず、ここで言おうとしていること、すなわちイエスの神性を見るようにしたいものです。この三人の使徒たちも、そのときはまだこの出来事がいったいどういうことなのか、理解することはできませんでした。彼らはキリストが復活してのち、初めてその意味を悟ったのです。
オリエンス宗教研究所 編『聖書入門―四福音書を読む』「第7講 イエスに出会った人々 イエスの変容」本文より

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