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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2019年12月01日  待降節第1主日 A年 (紫)
人の子が来るのは、ノアの時と同じである。……あなたがたも用意していなさい(マタイ24・37、44より)

箱舟のノア  
ステンドグラス 
イギリス カンタベリー大聖堂 1200年頃

 表紙に掲げられたのは創世記6~8章に記されるノアの洪水の出来事を描くステンドグラスの一部。創世記8章1-12節で述べられるノアが鳩を放つところである。旧約の主題なので、きょうの第1朗読に関連するかと思うと、そうではなく、主日朗読周期A年の最初としてマタイ福音書から読まれる待降節第1主日の箇所マタイ24章37-44節に関係する。イエスが最後に「あなたがたも用意していなさい。人の子は思いがけない時に来るからである」(44節)と告げるところである。その呼びかけの導入として、創世記6~7章の話を簡潔に思い起こさせている。表紙絵はここに関連する。
 ノアの洪水のエピソード(創世記6~9章)では、箱舟によって生き延びることを約束されたノアや箱舟の生き物たちと、堕落し不法に満ちていた他のすべての「肉なるもの」の滅びという、行く末の相違に焦点が当てられている。イエスがマタイ24章40-41節で語る、畑にいる二人の男と二人の女のたとえもこのことに対応する。これらの話が「人の子」と自ら呼ぶイエスの再臨に備えることへの呼びかけになっている。教会はこの福音を、今、我々に向けられている問いかけ、そして呼びかけとして受けとめ、告げ知らせている。その意味で「あなたがたも用意していなさい。人の子は思いがけない時に来る」は、教会の一年の最初に掲げられたメッセージというだけでなく、教会の一年、信仰者の一年を通して貫かれるものといわなくてはならない。
 ノアの物語を参照させることによって、ここでのイエスの「用意していなさい」というメッセージは、非常に大きな展望の上にあることが感じられてくる。信者としては、きちんと信仰生活を送りなさいという個人レベルでの諭しや戒めとして受け取ることはもちろんだが、それだけではなく、このメッセージが全人類、すべての人に向かっていることも意識しなくてはならない。主の再臨に備えることは地球世界全体、全人類、さらに命あるものすべてのものの存亡への連帯責任に関係しているからである。「神に従う無垢な人」(創世記6・9)であったノアは、洪水による滅びの中から、新しい未来を約束された人類の第二の出発を刻む者として祝福され、契約の恵みを受ける(創世記9章)。イエスの呼びかけも、当然に、主を迎え入れる人に約束される新しい命、新しい使命への招きを含んでいるはずである。信仰者の内向きの反省のためだけでなく、現代世界への福音宣教の呼びかけとして、我々がともに担わなければならないだろう。
 この呼びかけは、今回の教皇フランシスコ来日のテーマ「すべてのいのちを守るため」とも直結する。一年の典礼暦の最後の週の始まりにこのテーマを携えての訪日であることを意味深く考えたい。
 ところで、きょうの聖書朗読では「時」に関する語が三つの朗読すべてに出てくる。福音が告げる「人の子は思いがけない時に来る」(44節)ことの意味を考えさせる第1朗読と第2朗読である。第1朗読のイザヤ書では、「終わりの日に、主の神殿の山は、山々の頭として堅く立ち、どの峰よりも高くそびえる」(イザヤ2・2)として、救いの実現の時がイメージ豊かに約束される。第2朗読のローマ書では、「あなたがたは今がどんな時であるかを知っています。あなたがたが眠りから覚めるべき時が既に来ています」(ローマ13・11)として、救いの近づきを「日は近づいた」(12節)とも表現する。これらはすべて救い主の来臨を暗示する。「主イエス・キリストを身にまといなさい」(14節a)との呼びかけは、入信式で白衣の授与によって象徴される洗礼による新生を暗示しつつ、すべての人に向けられる、キリストとともに生きることへの招きの呼びかけである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

第三節 典礼暦年の周期とその活用

過越の神秘と顕現の神秘
 待降節から主の洗礼までの期間は、過越の神秘を中心に考えることもできるが、これとは別の神秘を中心にして祝う。これはおもに東方教会に早くから発達したもので、「主の顕現、神の栄光の現れ」(エピファネイヤ、テオファネイヤ)を中心にキリストの秘義を祝う。神の栄光の現れは、すでに旧約聖書に見られる思想で、キリストの奇跡、変容、昇天、復活なども栄光の現れであるが、この期間には、むしろ信仰の目をもって初めて見ることのできる、人間イエズスにおける神の栄光の現れが主題となっている。


土屋吉正 著『暦とキリスト教』「第三節 典礼暦年の周期とその活用」本文より

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