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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2022年1月1日  神の母聖マリア  (白)  
マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた(ルカ2・19より)

聖母子
「ロドナのおとめ信心会への書状」挿絵
スペイン ビック司教区美術館 14世紀

 今回の表紙絵では、一つの書状の挿絵として描かれている3点のマリアに関する図に注目している。マリア崇敬の信心会に対する書状としての特性だったのであろう。その雰囲気を味わうために、書面部分も含めて、三つ全体を眺めることにした。中央は聖母子像、(向かって)左は、マリアへの御告げ、そして右は、十字架のイエスのそばにたたずむマリアと使徒ヨハネを描くものである。
 きょうの神の母聖マリアの祭日にちなんで中心になるのは、やはり中央の聖母子の図である。コンパクトに描かれていくが、これは、立派な「玉座の聖母子」、のちに「マエスタ」(荘厳の聖母)とイタリア語で呼ばれるようになる類型の図である。天使たちが取り巻くなどの荘厳性の強調はないが、マリアの頭上の冠は、立派に天の后(レジナ)としての姿である。幼子イエスにも王子の雰囲気がある。
 さて、1月1日は、ローマ教会で伝統的にマリアを記念する祝祭日であるが、その出発点は1月1日が12月25日の主の降誕から8日目であるというところにある。元来、ユダヤ教の週と安息日の周期を背景として形成されたキリスト教の週と主日の周期だが、その中で、主日から主日までの8日間という考え方が重要になっている。キリストは初めであり、終わりであるという考え方に基づき、一週間、すなわち地上のすべての生活がキリストのうちにあるようにとの意味合いが含まれていく。その8日間という考え方はさまざまなところに活かされ、この12月25日から1 月1日という8日間が降誕節の前半を形づくることになる。
 この日の福音朗読箇所ルカ2章16-21節においては、降誕の夜の出来事の続き、すなわち、羊飼いたちが救い主の誕生を告げ知らせ、神を賛美していく様子があたかも降誕の感動の余韻のように語られるが、そこに、誕生から8日たって割礼を受け、「イエス」と名付けられたことが語られる。聖マリアの祭日であることのうちに、「神は救う」という意味をもつ「イエス」という名(ルカ1・31参照)が、天使の御告げのときの約束の幼子に付けられるということは、この神の御子である救い主の地上での歩みが本格的に始まることを意味している。そしてそこにはマリアがいる。
 朗読箇所の中で、マリアについて直接言及されるのはただ一文「マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた」(ルカ2・19)だけである。しかし、この「思い巡らし」の意味は限りなく深い。キリスト者にとって、信仰の中で救いの神秘、キリストの神秘に深く心を向ける瞑想や黙想の起源がここにあるといってもよいほどのものであろう。イエスの生涯へのマリアの同伴は、今後も明示的に言及されなくても、ずっと続いていたものと想像することができる。その極みは、いうまでもなくヨハネ福音書が意味深く語る、イエスの十字架上での死のときのマリアの同伴である(ヨハネ19・25-27)。
 この書状の三つの挿絵は、その意味で聖母子像を中心に、マリアへの御告げとイエスの十字架でのマリアの同伴を両側に描くことで、イエスの地上での生涯の始まり(受胎)と終わり(死)に際して、マリアがいたこと、その意味で、この救いの実現の歴史において決定的な役割を果たしていることを、やはりしっかりと意図している。イエスの地上の生涯に伴っていたマリアと、今や天上の教会で信仰の生涯への冠を受けたマリアを、中央に描いている。地上の聖母子と、天に上げられた(被昇天の)マリアが二重写しになっていると考えてよい。ルカが述べるように、マリアはイエスの誕生をめぐる「出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた」わけだが、その「思い巡らし」を我々も受け継いで、このマリアと御子イエスのうえに働く神の計画そのものについて向けていかなくてはならない。そのためにも、これら三つの場面を合わせて描く挿絵に注目した次第である。
 このマリアの同伴が救いの歴史の中で意味する一つの側面は、神の人類に対する「祝福」である。受胎告知の場面での天使ガブリエルの最初のことばは「おめでとう。恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28)であった。十字架のイエスがマリアと使徒ヨハネに向けて、それぞれ「母」と「子」と呼び、ここに教会を、ひいては新しい人類家族の誕生を示す。そして、聖母子像は「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな者と呼ぶでしょう」(2・48)ということばの通りのマリアを示している。
 このように、マリアの姿に、神の人類への祝福とより高い使命への招きが込められていることを、きょうの第1朗読箇所=民数記6章22-27節は示している。イスラエルの民への祝福のことば、神の祝福と照らし、恵みと平安を約束するそのことばは、イエスとマリアを通して、今やすべての人に向けられ、一人ひとりを神の民となるよう招いている。救いの歴史の実りとして告げられる祝福のメッセージとともに、教会は全人類世界の中で、この喜びを運ぶ使命を新たに受けるのである。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

(1)天使ガブリエル
 天使のお告げを受けた二人とも、当初はそれを疑わしく思いました。しかし、天使の説明を聞いて、おとめマリアは信じましたが、祭司ザカリアは信じるどころかしるしを求めます。天使がザカリアだけに自己紹介したのは、彼が祭司だったので旧約聖書から天使ガブリエルのことをわかっているはずだとされたからでしょう。天使ガブリエルが神から受けたメッセージを告げるだけでなく、相手に対して即座に影響を与える直接的な力を持っていることは印象的です。

カブンティ・オノレ 著『聖書が語る天使の実像――霊的生活を深めるヒント』「3章 聖書で言及される特別な天使」

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