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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年5月18日 復活節第5主日 C年 (白)  
あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい (ヨハネ13・34より)

最後の晩餐  
柱頭彫刻
スペイン ジローナ県 ビラベルトラン修道院 12世紀

 中世のキリスト教美術は修道院の石の柱の上の部分(柱頭)の浮彫りにまで、聖書の場面を描くという伝統があった。聖書の挿絵やステンドグラスとも共通の、イエスの最後の晩餐の描写である。それが一般にヨハネ福音書13章21-30節の叙述をモチーフにしているということは共通である。この柱頭彫刻でも、イエスが大きく中央に描かれ、その胸元に寄りかかっている「弟子たちの一人で、イエスの愛しておられた者」(ヨハネ13・23、25参照)が描かれている(一般にヨハネとされる)。そしてここの叙述の大きなテーマはイスカリオテのユダの裏切りの予告である。この柱頭彫刻でもイエスの周りには、12人の弟子たちが描かれていたはずだが、右端の上の弟子が剥落している。確実にイエスの両側に六人ずつ描かれている。そして「イエスの愛しておられた者」の反対側、つまりイエスの(向かって)左側にいて、右手を伸ばしてイエスからパン切れを受けようとしている男がユダである。
 この出来事が物語られるヨハネ13章21-30節に続く箇所がまさしくきょうの福音朗読箇所13章31-33a, 34-35節の部分である。そこで、ユダの裏切りによって決定的となる受難(死に至る道)についして、「今や、人の子は栄光を受けた」(13・21)とイエスは告げ、「いましばらく、わたしはあなたたちと共にいる」(33節a)として、「あなたがたに新しい掟を与える、互いに愛し合いなさい」(34節)という決定的な発言になるのである。これがキリストの弟子であること、ひいては、新しい神の民、新しい人間、人類であることのための掟として授けられている。
 受難の始まりにあたってのイエスのこのことばを、教会は復活節に、復活して今父の右にあり、導いておられる主のことばとして聞く。復活節第4主日のヨハネ10章から良い羊飼いの教えが既にそうであった。そして、このことが復活節のの第5主日、第6主日においても展開される。すなわちヨハネ13章、14章、15章と、イエスの弟子たちに対するいわゆる告別説教がABC年のそれぞれに巧みに配分されているのである。それは、イエスの生涯を神の子の栄光のあかしとして初めから説き明かしていくヨハネ福音書の特色とも合致しているといえよう。
 「わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」(ヨハネ13・34)という――この掟は、ヨハネ福音書のさまざまな文脈で繰り返される。ヨハネ15章12節では、同じ文言が出てきたあと、13節では「友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない」と、愛の本質が説き明かされる(ここでの「捨てる」は「ささげる」と解するべきだろう)。
 この「愛」について、使徒ヨハネの手紙は、別の角度からも説き明かしている。一ヨハネ書4章10-11節である。「わたしたちが神を愛したのではなく、神がわたしたちを愛して、わたしたちの罪を償ういけにえとして、御子をお遣わしになりました。ここに愛があります。愛する者たち、神がこのようにわたしたちを愛されたのですから、わたしたちも互いに愛し合うべきです」。イエスの愛の背後に父である神の愛があることが明らかにされている。もとより、このことは、イエス自身が語っていることである。「父がわたしを愛されたように、わたしたちもあなたがたを愛してきた。わたしの愛にとどまりなさい」(ヨハネ15・9)と。父である神 ― 御子イエス ― 弟子(我々)の間での愛の交換が幾重にも、そして双方向的に語られるのがヨハネ福音書とヨハネの手紙である。
 同時に、ヨハネ14章27節では、この愛の掟と関連する「平和」の授与が語られる。「わたしは、平和をあなたがたに残し、わたしの平和を与える」。来週の福音朗読箇所ヨハネ14・23-29に含まれる、この文言は、ミサの交わりの儀の始まりにあたって告げられ、今現在、我々に主の平和がゆだねられて、この平和を広げていくことが我々の使命として告げられる。
 そのことが聖体をいただく意味の一つとして示されるので、交わりの儀は、キリストの平和と愛を受け、それに満たされ、そして、それを現実の世の中に広げていくための式であることが明らかにされる。このように、「互いに愛し合いなさい」の掟は、「行きましょう、主の平和のうちに」という閉祭のことばに至るミサ全体を貫いて、主自身が我々を支え、導いていることを生き生きと示している。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』復活節第五主日

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