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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年6月8日 聖霊降臨の主日 C年 (赤)  
炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった (使徒言行録2・3より)

聖霊降臨  
ロンドンの聖オールバン修道院で作られた詩編書挿絵
12世紀
 
 聖霊降臨と呼ばれる出来事を伝えるのはきょうの第1朗読箇所である使徒言行録2章1-11節である。この箇所がA年、B年、C年を通じていつも朗読される。表紙絵はまさにこの出来事を描く詩編書挿絵であるが、装飾的な枠組みの中で簡潔に構成されている。目立つのは使徒たちの中央にいるマリアの姿の大きさ、そして、天から降りてくる鳩の形で表現された聖霊と、その聖霊からマリアをはじめ使徒たちに伸びてくる「舌」の描写であろう。
 しばらく、この絵と使徒言行録の叙述を照らし合わせてみよう。まず、前提として、聖霊降臨の出来事の前の使徒言行録1章12-26節が重要である。使徒たちはエルサレムに戻って来て、ある家に泊まっていた。そこにいた使徒たちの名前が挙げられるが、全部で11人である。イスカリオテのユダが抜けた後の数である。そして「彼らは皆、婦人たちやイエスの母マリア、またイエスの兄弟たちと心を合わせて熱心に祈っていた」(14節)とある。このマリアへの言及があることで、聖霊降臨の図には、二通りの描き方が生まれる。使徒たちだけを描いて聖霊が注がれていることを描くもの、使徒たちの中央にマリアを描くものの二つである。この絵は、むしろマリアがクローズアップされているところに特徴がある。マリアへの崇敬の強さが表現されているといえる。
 使徒言行録2章はいよいよ聖霊の降臨を物語る。「五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると、突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった」(1-3節)とある。
 彼らに現れる聖霊が聖なる霊、つまり神の霊であることをまず、この絵は、中央上の半円の空間で表現する。その真ん中に十字に光を放つ星が描かれている。神の栄光とそれを地上の人々には覆い隠す雲がこのように表現されている。神の神秘に対する一種の表現伝統である。
 そこから鳩が、すなわち聖霊が真下に降りてくる。四福音書すべてで、イエスの洗礼のときに注がれた聖霊が鳩のようだ、と記されていることを思い起こさなくてはならない(マタイ3・16、マルコ1・10、ルカ3・22、ヨハネ1・32参照)。イエス自身を満たしていた霊が今や、鳩の口からマリアと使徒たちの上に「炎のような舌」と形容されて、分かれ分かれに出て来る。その金色の線によっても聖霊が表現されている。
 マリアと使徒たちのいる空間が城壁で囲まれた都市のようでもあり、全体が水を入れる瓶のような器にも見える。マリアと共同体をすっかり聖霊が満たしていることが、この空間の内側の青(風の表現)、緑(いのちの表現)の充満を通して示されているようである。まさしく、「すると、一同は聖霊に満たされ」(使徒言行録2・4)という瞬間である。瓶のような器でもあり、エルサレムという都市のようでもあり、いずれにしてもこの共同体が聖霊に満たされ、やがて、ここからあふれ出ていこうとしている。
 使徒たちの顔も重なり合いながらよく描かれている。その目は、出来事の不思議さに心を奪われているようであるが、同時に、そこには迷いもない。神妙に出来事を受けとめ、聖霊の注ぎを受け入れようとしている。前のほうにいる使徒たち、そしてマリアの手が比較的大きく描かれている。天からの霊の注ぎを受けとめる手が使徒たちの手だとすると、マリアの手は、それを真正面に向けている。天から受けた力を世界に及ぼしていこうとしている。絵の中の使徒たちの口はまだ閉じている。しかし、ここから次の瞬間には、「“霊”が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした」(4節)のである。使徒たちの宣教が始まる瞬間の姿をマリアの真正面を向く姿と顔が象徴している。
 マリアと霊の関係については、ルカ福音書の1章を思い起こすことが重要である。天使ガブリエルが、「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1・28)と告げられ、「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる」(同1・35)と告げられている。マリアはすでに真っ先に聖霊が降臨した人でもあった。そのマリアを中心にする聖霊降臨の図は、このマリアへの受胎告知と、マリアからのイエスの誕生というプロセスを内に含ませつつ、ここでの使徒たちへの聖霊降臨と、宣教の始まりを描いているものといえる。
 場面や装飾的な縁取りの基調は、薄い赤紫色と言える。それと青のコントラストが全体に貫かれている。赤紫は救い主としての尊厳を示すために用いられる色であり、また、青は風、息吹を示す。この色の組み合わせで、神の霊、聖なる霊の表現には十分である。
 絵画は、音を表現できないが、風の吹いているような音が家中に響いたという、その響きを、この絵を通して想像してみることも大切だろう。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』聖霊降臨の主日 C年

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