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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年6月15日 三位一体の主日 C年 (白)  
主は、その道の初めにわたしを造られた  (箴言8・22より)

「時」の主としてのキリスト
祭壇布模様
ケルン 聖クニベルト修道院 9世紀末

 三位一体の主日C年の第一朗読は、天地創造の出来事を思い起こさせつつ、すべての創造に先立って生み出されていた「知恵」自身が語ることばを内容としている。もちろん、これが神のみことばである御子のことを意味する旧約的な前表/予型であるという意味での配分である。
 この意図にちなみ、表紙絵には、大変珍しいものだが、9世紀末という古い時代に作製された祭壇布の模様に描かれた「時」の主の図が掲げられている。本来の作品題は「玉座のアンヌス」と言う。アンヌス(Annus)とは一年、二年の「年」を意味する。いわば、一種の時の「主」、時の「神」の意味であるが、もちろん、教会の祭壇布としては「時」の主としてのキリストを表現するものである。
 青緑の地に、金色や赤色の糸での刺繍で模様が描かれている。判別しにくいところもあるが、資料によると、まず主が中心にいる二層の円はもちろん宇宙全体を表す円ないし球(オルビス orbis)である。その下(つまり内側の四角形の下)には、波打つような線が描かれ、その上の左と右に人の姿が描かれている。一つはギリシア神話のオケアヌス(大洋)の神格を擬人化したもの(たぶん向かって左の人の姿)、右がガイア(大地)の神格を擬人化したものである。これら地球の重要な要素を主は支配している。両手が挙げられており、その手は何かを掲げているが、それぞれ昼(右手)と夜(左手)である。
 玉座の主を囲む円のすぐ外側の円には、8つの表象が描かれているが、これは一年の季節を象徴するという。そして外側の円には12の動物が描かれている。一種の十二支ともいえるし、星座の名称かもしれない。これらは古代諸宗教においていずれも神格を有する者で、崇拝の対象となっていたものである。そうした多神教的な宇宙観の構成要素を、主キリストが中心にあって全体を支配している、と描くところに、キリスト教的な世界観、宇宙観が表明されているものである。これらの円(球)が描かれている青緑色の四角の空間には、左隅の上にギリシア語のアルファ(Α)、右隅にオメガ(Ω)が記されている。言うまでもなく黙示録(22・13)のことばに基づく。
 外側の縁の中にも、装飾的な書体である文言が記されている。判別しにくいが、解説文によると聖書の句のほかに、"populus qui conspicit omnis/ arte laboratum"と綴られているとのこと。「巧みな技によって造られたものすべてを観照する民」という句で、これは古代ローマの詩人ウェルギリウスの詩に由来するともいう。「民」に焦点をあてているところが興味深いが、キリスト教を信じる民の世界観であるとの宣言が込められているのかもしれない。
 いずれにしても、創世記の天地創造の叙述を思い起こすだけでなく、新約聖書的創造観をはっきりと心に刻むのに、この絵は、ふさわしい。ヨハネ福音書が「万物は言(ことば)によって成った。成ったもので、言によらずに成ったものは何一つなかった」(ヨハネ1・3)、コロサイ書が「万物は御子によって、御子のために造られました。御子はすべてのものよりも先におられ、すべてのものは御子によって支えられています」(コロサイ1・16-17)と説き明かされるところである。
 さて、三位一体の主日は、父と子と聖霊という三つの位格(ペルソナ)を有する、唯一の方(実体)である神についての信仰の教えを主題とする祭日である。それは、この日の『聖書と典礼』も掲載されている集会祈願「聖なる父よ、あなたは、みことばと聖霊を世に遣わし、神のいのちの神秘を示してくださいました。唯一の神を礼拝するわたしたちが、三位の栄光をたたえることができますように」、叙唱の中心部分「あなたは御ひとり子と聖霊とともに唯一の神、唯一の主。わたしたちは父と子と聖霊の栄光を等しくたたえ、三位一体の神を信じ、礼拝します」に示されているとおり、三位であり、唯一の神であるという信仰を告げるものである。
 その限りでは、抽象的、神学的な内容に思えるが、典礼の聖書朗読はこのことを神のみわざの歴史、神と世界の関係、神と人間の関係が歴史の中で明らかにされてきた、というプロセスを思い起こさせるようになっている。とくにC年の今年の福音朗読箇所は、それらを悟らせてくれる真理の霊、すなわち聖霊の働きを告げて、その中で、御父と御子の一体性が語られている。
 そして、第二朗読箇所であるローマ書5章1-5節も聖霊の働きに言及する。「わたしたちに与えられた聖霊によって、神の愛がわたしたちの心に注がれているからです」(5節)と、聖霊の働きを通して御父と御子の愛が我々に与えられていることを告げて、力づける内容である。
 キリストによるあがないの恵みによって得られている我々の希望を語る箇所は、とりわけ印象深い。「わたしたちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。希望はわたしたちを欺くことがありません」(3-4節)。
 この「希望は欺かない」のメッセージが前教皇フランシスコによって2025年の聖年の主題とされていることを、大切に受け止めたい。「希望の巡礼者」として現代世界における苦難と忍耐を思いながら、そして、新教皇レオ14世へのこの霊性の継承に信頼と期待を込めつつ、今年の三位一体の祭日を大切に過ごしたい。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』三位一体の主日 C年

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