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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年9月14日 十字架称賛 (赤)  
モーセが荒れ野で蛇を上げたように、人の子も上げられねばならない(ヨハネ3・14より)

モーセと青銅の蛇
挿絵
「アンリ2世の祈祷書」 パリ国立図書館 16世紀

 きょうの表紙では、福音朗読箇所ヨハネ3章13-17節におけるイエスのことばの中の「モーセが荒れ野で蛇を上げたように、人の子も上げられねばならない」(14節)に寄せて、そのモーセのエピソードを述べる第一朗読箇所の民数記21章4b-9節の内容を描写する祈祷書挿絵が掲げられている。十字架称賛という祝日のテーマになる十字架を仰いで礼拝する、崇め尊ぶということの背景にある、旧約の出来事と福音のイエスの教えをよく重ね合わせながら考えていくのにふさわしいだろう。
 挿絵の場面そのものは、この第一朗読箇所の中からも十分に伝わる。荒れ野の旅をしている神の民イスラエルが過酷な道程の中で忍耐を切らし、神とモーセに逆らうようになった(民数記21・4b-6参照)。そこに、主は「炎の蛇」を送る。「炎の」という語は「有毒な」を意味するもののようで、つまりは毒蛇のことである。これが民をかみ、多くの死者が出たということは、まさしく神からの罰にあたる。それに対して、民は罪を告白し、回心を示す(7節参照)。モーセが主に祈ると、主は、「炎の蛇を造り、旗竿の先に掲げよ。蛇にかまれた者がそれを見上げれば、命を得る」(8節)とモーセに言う。
 古代イスラエルの歴史では、ここで言及される「青銅の蛇」がその後、偶像化されていったようである。紀元前8世紀のヒゼキヤ王の改革のときの偶像破壊の中で、青銅の蛇のことが言及されることからそれがわかる。ヒゼキヤ王は「聖なる高台を取り除き、石柱を打ち壊し、アシェラ像を切り倒し、モーセの造った青銅の蛇を打ち砕いた」(列王下18・4)のである。しかし、モーセのとき、民を救うしるしとなった青銅の蛇の記憶は長く残り、知恵の書16章6-12節では、この出来事が念頭に置かれて、滅びに瀕した民が救いのしるしを仰ぎ見て、神によって救われたことが語られる。「あなたの律法の戒めを思い出される救いのしるしが与えられた。そのしるしを仰ぎ見た者は、目に映ったしるしによってではなく、万物の救い主であるあなたによって救われた」(知恵16・6-7より)。
 こうした歴史が福音朗読箇所のイエスのことばの中に回収され、さらに意味を高められていく。自分自身のこれからの歩みについて「人の子も上げられねばならない」(ヨハネ3・14)とつげるときの前例(予型)としてモーセの時のエピソード(挿絵の描く場面)が想起されているのである。そしてよく語られることだが、この「上げられる」という言葉は、「十字架に上げられて死ぬ」ことを暗示していると同時に「人の子のほかには、天に上った者はだれもいない」(13節)とあるように、「天に上げられること」、すなわち十字架の死の後復活し、天に上げられることをも暗示する。究極的には、「神が御子を世に遣わされたのは、世を裁くためではなく、御子によって世が救われるためである」(17節)が明確に語るように、御子の派遣、その十字架上の死と復活による救いの実現を語るものである。
 旧約の民の経験は、すべての人類の救いのひな型を示すもので、その完全な体現は、まさにイエスの十字架にあるということである。
 その意味で、十字架称賛の祝いの趣旨は、聖週間における受難の主日、聖金曜日の趣旨とも全く重なり合う。そのことをまさしく示すのが第二朗読箇所のフィリピ書2章6-11節である。この箇所は、受難の主日のミサの第二朗読と詠唱、聖金曜日の詠唱で用いられる箇所だからである。
 このような趣旨としては聖週間と重複するような祝日だが、その成立は4世紀前半に建設されたエルサレムの十字架聖堂の献堂式に由来するという。その後、東方教会で広まり、十字架の聖遺物のある教会で、盛大にこれを高く掲げて賛美する式が行われた。それが十字架称賛の名称に反映される。この儀式は、印象深いものとなり、やがて7世紀にはローマ教会にも伝わり、伝統となっていく。福音朗読箇所は、伝統的に現在も踏襲されているヨハネ3章の上述の箇所であるが、旧約聖書の朗読を豊かにするようになった現在でと、イエスのことばの背景にある民数記のエピソードが朗読されるため、救いの歴史全体を展望するためにふさわしいものとなっている。きょうも表紙絵とともに民数記から知恵の書、そして福音書、使徒の手紙の朗読箇所全体を黙想することが、この祝日の過ごし方となるだろう。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』 十字架称賛

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