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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2025年9月21日 年間第25主日 C年 (緑)  
この方はすべての人の贖(あがな)いとして御自身を献げられました  (一テモテ2・6より)

十字架のイエス
イオシフ・チョリス作
キプロス 聖ネオフィトス修道院のイコノスタス 1544年

 きょうの表紙絵は十字架に磔(はりつけ)にされているイエスの像、いわゆる十字架磔刑図のイコンである。第二朗読箇所である一テモテ書2章1-8節より「神は、唯一であり、神と人との仲介者も、人であるキリスト・イエスただおひとりなのです。この方はすべての人の贖いとしてご自身を献げられました」(5-6節)にちなんでいる。
 16世紀半ば、キプロスの修道院の聖堂のイコノスタスの一部をなすもの。十字架の横木に両手を釘付けられ、足台にも釘付けられているイエスの身体は痩せており、その陰影が痛々しい。力なく身体は屈曲し、頭も垂れており、こうしてイエスの死の厳粛な事実性が明示されている。イエスの(向かって)左側の端にはマリアがいて、イエスを仰いでいる。同伴する女性もいる。反対側には使徒ヨハネ、嘆いているのだろう。右手を頬に当てて沈んでいる。その後ろには兵士が描かれており、これらの要素は、全体としてヨハネ福音書19章16節から27節における描写を基にしている。それは、古くからの磔刑図の定型であることはこれまでもご覧になっているだろう。ちなみに、十字架が立てられている場所の地面の裂け目の中には頭蓋骨が描かれている。「されこうべの場所」を意味するゴルゴタという所であること(ヨハネ19・17参照)が表現されている。
 このような磔刑図からイエスの十字架上での死を強く印象づけられるが、それに対してきょうの福音朗読箇所はルカ福音書16章1-13節(短い場合は10-13節)で、ある金持ちの管理人の譬えを語りつつ、最終的には神か富か、という問いかけを突きつける内容の箇所である。それは、地上の富にとらわれたり、ふり回されたりするのではなく、神に対して忠実であること、富も神への忠実のために効果的に、主体的に活用する、そのような知恵ある生き方を呼びかけるものであろう。この主題に関連する形で、第一朗読ではアモス書8章4-7節が配分されており、弱い者、貧しい者を金で買い取る富裕者の不正を厳しく批判する内容が読まれる。
 今回の表紙絵が基づいた第二朗読箇所一テモテ書2章1-8節は、神の救いの計画とその実現を端的に語る。「神は、すべての人々が救われて真理を知るようになることを望んでおられます。神は唯一であり、神と人との間の仲介者も、人であるキリスト・イエスただおひとりなのです。この方はすべての人の贖(あがな)いとして御自身を献げられました」(一テモテ2・4-6)。きょうの福音でイエスは譬えを用いて「神に仕えること」「神に忠実であり続けること」を教えていると言えるが、このことを体現したのがイエス自身の十字架への道であり、磔刑における姿に他ならない。具体的なテーマである神か富かという決断への問いかけのもっと先にある究極の決断がここにあるとも言える。考えてみると、神と富は同じ次元の上にあるものではなく、そのような富の価値を超えた神の次元で自分の行動や生き方を選んでいくことへの指示が、イエスの教えの中にはあったはずである。
 そのようなイエスの教えに近づく道を使徒書は、より具体的に語っているともいえる。それが第二朗読箇所の冒頭で語られる内容である。「まず第一に勧めます。願いと祈りと執り成しと感謝とをすべての人々のためにささげなさい。王たちやすべての高官のためにもささげなさい」(一テモテ2・1-2)――この教えは、実はミサの共同祈願に受け継がれている。ミサの式次第の中で日本語の「共同祈願」と訳されている原語のラテン語は「オラツィオ・ウニヴェルサーリス」で「すべての人のための祈願」を意味する。その心を示しているのが一テモテ書のこの箇所であり、「すべての人々のために」ということばである。全教会、全世界そして為政者、困難なさまざまな境遇にあるあらゆる人を顧みる祈りをキリスト者の共同体として神の前でささげることが、神のみ旨にかなう行動や生き方全体の入口にもなっていく。そのような祈りを繰り返すことのうちに神を選ぶ、神に自分を献げる生き方が養われてくる。そのような我々の生活への導きが、きょうの聖書朗読にはふんだんに示されている。その中心は表紙絵のイコンが写し出す十字架のイエスの姿であり続けている。
 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(C年)●典礼暦に沿って』年間第25主日

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