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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年4月19日  復活節第2主日 (神のいつくしみの主日) A年 (白)  
信じない者ではなく、信じる者になりなさい (ヨハネ20・27より)

復活したイエスとトマス 
ロシア・イコン  
ノヴゴロド歴史建築博物館  15世紀末
 
 恒例の確認になるが、復活節第2主日の福音朗読は毎年このヨハネ20章19-31節である。イエスが復活したその日、すなわち週の初めの日の夕方に、復活したイエスが弟子たちの真ん中に来て立ち、平和を与え、聖霊を授ける。弟子たちの中でトマスだけが疑いを示す。その八日の後、つまり次の週の初めの日にまた、イエスが弟子たちの中に現れ、そしてそのトマスと対話する。なかでも、「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない」(20・25)と言ったトマスに対してイエスが「あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい」(20・27)と答えたところから、この場面を描く絵のタイトルは一般に「トマスの疑い」ないし「トマスの不信」と呼ばれようになっている。
 トマスをめぐる叙述全体(ヨハネ20・24-29節)の中で、イエスの手の釘跡もわき腹の傷跡と並んで言及されているが、絵ではたいてい脇腹の傷跡のみに焦点をあてられる。そして、そこに向かってトマスがただ覗きこむだけのように描くものもあれば、手を伸ばしているだけのように描くものもある。このイコンの場合、トマスはイエスの脇腹の傷を神妙に覗き込み、かつ右手の人指し指をもはや傷の中に入れようとしている。「あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい」(20・27)というイエスのことばに対して、とそのとおりトマスが行ったように想像されているといえる。
 ただ、意外に思われるが、実際にトマスがそうしたかどうかについて福音書は言及していない。トマスは、「あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい」に続いてイエスが告げた「信じない者ではなく、信じる者になりなさい」ということばに対して、「わたしの主、わたしの神よ」と答え、まさしく「信じる者」となるのである。あたかも「手をのばし、脇ばらに入れなさい」は、「信じる者になりなさい」という意味と重なって召命の呼びかけであり、トマスの答えはまさしく信仰告白であるということになる。したがって、絵がトマスの行為(手を伸ばし、わき腹に入れようとする)を描いているとしても、むしろ主題としては、トマスの信仰告白を表現していることになるといえる。正しい画題は「トマスの信仰」というべきであろう。
 これは、人がいかにして信仰者となっていくかの一つの事例なのではないだろうか。直接、イエスとともに歩んできたペトロをはじめとする使徒たち、特別な出会いの体験をもったパウロのほか、そして、その後の世代の人々は、みな「見ないのに信じる人」となるべく呼ばれている。使徒のあとの世代のキリスト者の先陣を切っているのがトマスであるとしたら、そのきわめて素直に疑うような態度も信仰に向かっていくひたむきな熱意に感じられてくる。「見ないのに信じる人は、幸いである」(ヨハネ20・29)ということばは、彼のあとにイエスと出会うことになる人すべての人(我々も含む)へのイエスの祝福であり、招きであり、福音であろう。
 さて、このイコンには画面構成上の工夫が見られる。左側の壁の湾曲と右側の建物の垂直的な構成の対称が全体に動きを与え、イエスが立っているところには平たい足台があたかも舞台のようにある。そして、イエスとトマスの頭上あたりの建物の上には赤いヴェールがあって、二人の間の出来事を強調しているかのようである。建物の扉がイエスの姿を後ろから照らし出す光背のような役割を果たしているところも興味深い。復活したイエスが弟子たちの中に来て「真ん中に立ち」(ヨハネ20・19)、「あなたがたに平和があるように」(21節)、「聖霊を受けなさい」(22節)と告げ、聖霊を授けるという叙述の前半の内容は、まさに主の栄光の現れを語るものである。それにふさわしい情景設定がここにはある。建物も背景の木々も神の国の象徴に思えてくる。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

使徒の教え、相互の交わり、パンを裂くこと、祈ること
特に(使徒言行録)2・42は内容的に凝縮されており、ここにいつの時代にとっても基本的な生命活動が列挙されている。

和田幹男 著『主日の聖書を読む――典礼暦に沿って【A年】』「復活節第二主日」本文より

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