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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2020年11月08日  年間第32主日  A年(緑)  
花婿だ。迎えに出なさい(マタイ25・6より)

10人のおとめのたとえ 
ロッサーノ朗読福音書  
イタリア ロッサーノ司教区美術館 6世紀

 きょうの福音朗読箇所マタイ25章1-13節では、花婿を迎えるために油の用意をしていたおとめたち(花嫁の友人にあたる)とその用意をしていなかったおとめたちとの対照が鮮やかである。これによって、キリストの再臨の時に向けて、信者たちに対して平常からの備えが呼びかけられている。
 朗読福音書の挿絵の初期形態にあたるこの作品が描き出しているのは、ちょうどこの箇所の中の25章10-12節である。用意していなかった愚かなおとめたちが油を買いに行っている間に花婿が到着する。用意のできていた賢いおとめたちは花婿と一緒に婚宴の席にすでに入っている。帰ってきた愚かなおとめたちが閉まった戸を叩き、花婿に向かって「御主人様、開けてください」(11節)と懇願する。しかし、彼からは「わたしはお前たちを知らない」(12節)と言われてしまう。愚かなおとめたちは花婿に向かって「御主人様」と呼ぶが、そこにはへつらいが含まれているかもしれない。
 このようなたとえを含む話を描くのに、この挿絵は花婿を明確に主キリストとして描いて、たとえの意味を明らかにしている。花婿は再臨するキリストである。このように救い主(メシア)を花婿にたとえるのは聖書の中でも福音書に初めて登場する考え方のようだが、そのもとにはマルコ2章19-20節の短いたとえがきっかけになっているともいわれている。「花婿が一緒にいるのに、婚礼の客は断食できるだろうか。……」である。
 絵に戻ろう。向かって右側の「賢いおとめたち」の白い衣が鮮やかである。本文には言及されていないが、おのずとこの色が適切とされたのであろう。純一な信仰をもってキリストを迎えた信仰者の心がよく表されている。白は変容のキリストが示したように、また天使が白衣で描かれるように、神から来る者の色である。先週、諸聖人の祭日の第1朗読で読まれた黙示録7章に出てくる、信仰を貫いて神のもとに迎え入れられた人々(殉教者)も白衣で描かれる。広い意味で神の聖性にあずかる人々の色といえる。受洗者の白衣にもこの意味合いが込められている。それに対して、戸の外にいる5人の愚かなおとめたちは多彩な色の服を着ている。言い過ぎかもしれないが、世間の虚飾にとらわれている人々の様相として描かれているのだろう。
 5人の賢いおとめたちのいる側には楽園を示す表象群が描かれている。四つに分かれた川があり、上のほうには、実がなり、葉が茂る樹木が描かれている。これらの表現には、創世記2章8-15節がもとにあり、黙示録22章1-2節の「命の川」もここに関係する。
 きょうのマタイの箇所では、「婚宴」(10節)が、神と人が一つに結ばれて永遠の命を生きる神の国の表象として登場するが、この絵では、それが楽園として描き出されているといってよい。この表象を加えたことで、創世記から黙示録まで聖書全体が告げる救済史全体を暗に含まれていることになる。キリストがこの中心にいることは言うまでもない(ちなみに、この絵の下側に描かれている4人の人物はこの教えを前もって示した旧約の人物たちといわれるが、記されている文字が読み取れず、だれを示しているかはっきりしない)。
 きょうの福音朗読と第1朗読を結ぶキーワードの一つは「賢さ」である(福音朗読に関しては言うまでもなく「賢いおとめ」、第1朗読の知恵の書6章12-16 節のうちの15節「知恵に思いをはせることは、最も賢いこと」)。第1朗読では「知恵」がキリストを思わせる人格的な存在となっている。福音のたとえ話でいえば「花婿」である。もう一つ共通するキーワードとして「目を覚ます」がある。「知恵を思って目を覚ましていれば、心配もすぐに消える」(知恵の書6・15)、そして「だから、目を覚ましていなさい。あなたがたは、その日、その時を知らないのだから」(マタイ25・13)。
 主が再び来られるときに向けて、平生からの備えを呼びかけるこのことばは、キリスト教の生活の出発点をなすものである。そのような備えがある人の象徴として、この絵の中の白い衣の「賢いおとめたち」の立ち姿を眺めることができる。すっと立ち、やや前に、あるいは上方に身体が向かっているように感じられる。左の「愚かなおとめたち」の躊躇し、迷っている雰囲気とは違う。このような描き分けも巧みである。しかし、その立ち姿は、逆な意味では自分自身側からの動きというよりも、キリストの現れに対する、あるいは神からの恵みの注ぎに、身をゆだねている姿のように感じられる。我々の典礼への参加、その中での祈りの姿が、このたとえの中のおとめたちのように、神の栄光に近づくものでありたい。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

年間第三十二主日
 本日は、第二朗読に注目してみよう。パウロによる一テサロニケ書は、新約聖書二十七書の中で最も早く書かれた手紙である(西暦五〇年代前半)。それは、最初の福音書が書かれた時より、二十年ほど早い。それだけにこの手紙は、始まったばかりの教会の息吹きを感じさせる。

和田幹男 著『主日の聖書を読む――典礼暦に沿って【A年】』「年間第三十二主日」本文より

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