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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2022年12月25日 主の降誕(夜半のミサ) (白)  
今日、あなたがたのために救い主がお生まれになった (福音朗読主題句 ルカ2・11より)

主の降誕
ステンドグラス
スイス ケーニヒスフェルデン 旧修道院聖堂 1315年ごろ

 表紙掲載作品は、スイスのアールガウ州ケーニヒスフェルデンにあった14世紀初頭創建の修道院遺跡のステンドグラスの降誕図である。フランシスコ会とクララ会の修道院が一体となった、いわゆる「男女併存修道院」であった。1528年、宗教改革の波が及び廃絶。聖堂内陣の壁を飾るステンドグラスは、往時をしのばせる遺跡の一つとなっている。
 縦長の枠組みの中で、全体の構成に注目すると、降誕図に伝統的な定型要素であるろばと牛は、上に配置されている。マリアが幼子イエスを抱きかかえて正面から見つめるという構図は、14世紀というこの時代に現れた新しいもので、今年の主の降誕(日中のミサ)の表紙絵に掲げた、同時代のジョット(1267頃-1337年)の降誕図にも見られる。全体の構図の中で、ろば、牛、マリアの視線が幼子に向かっている一方で、マリアの姿、その顔や頭の覆いが大きく、白という色彩で際立たせられている。ここに、マリアへの崇敬心の高まりが表れているように思われる。
 そして、降誕図として有名な要素として、牛とろばがイエスをのぞき込んでいる。これは、イザヤ1章3節の「牛は飼い主を知り、ろばは主人の飼い葉桶を知っている。しかし、イスラエルは知らず、わたしの民は見分けない」という文言が出発点になっている。本来、イスラエルの民に対する叱責、回心の呼びかけを含んでいるこの預言のことばから、降誕の救い主を知る者の代表として牛とろばが描かれることになった。やがて、牛はユダヤ人を、ろばは異邦人を意味するとの解釈も加わるが、いずれにしても、「すべての人々に救いをもたらす神の恵みが現れました」(テトス2・11。きょうの第二朗読箇所テトス2・11-14の冒頭)ということを示す表象として長く定着した。
 この画像の中で最も興味深いのは、このろばと牛がのぞき込んでいる飼い葉桶が、あたかも2階建ての建物のように造形されているところである。これは、地上世界そのものの象徴という意味があるものと考えられる。地上に生まれた神の御子イエスを示すための設定であるともいえる。この建物の模様であるアーチ型の窓(開放部)の中も真っ暗である。このような造形と配色が、主の降誕(夜半)の聖書朗読箇所を黙想させる一つのきっかけとなる。
 第一朗読箇所(イザヤ9・1-3、5-6)の冒頭「闇の中を歩む民は、大いなる光を見、死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」(1節)、そして「ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた」(5節)。「その名は、『驚くべき指導者、力ある神、永遠の父、平和の君』」(同)であった。福音朗読箇所ルカ2章1-14節では、夜通し羊の番をしている羊飼いたちに、天使が「今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである」(11節)と告げる。これも闇夜へのお告げであった。ステンドグラス画像の各縁取りの黒い色が、このような闇や夜のイメージにつながり、闇夜に生まれた幼子イエスのまだ弱く、小さな裸の姿はとてつもなくか弱い。そして、その姿は、やがて生涯の終わりに十字架につけられた体をも想像させる。いや我々としては想像しなくてはならない。そしてそこに救い主への待望の気持ちを重ねていかなくてはならない。
 そこで、第二朗読テトス書のことばが効いてくる。「キリストがわたしたちのための御自身をささげられたのは、わたしたちをあらゆる不法から贖(あがな)い出し、良い行いに熱心な民を御自分のものとして清められるためだったのです」(テトス2・14)。この夜には、また十字架上で死んだイエスが復活に至るときにくぐったあの夜、復活を待ち、迎える夜とも重なる。というよりも、徹底して、夜の闇、死の陰を通り抜けていく主イエスの復活に至る過越の夜を、降誕の夜は予告しているともいえる。
 伝統的な集会祈願を通しても、この闇夜を照らす光としてのキリストの意味合いが強調されている。
 「聖なる父よ、あなたはこの神聖な夜を、まことの光キリストによって照らしてくださいました。
  やみに輝く光を見たわたしたちが、その喜びを永遠に歌うことができますように」(きょうの「集会祈願」より)。
 画像の鑑賞から、クリスマスの賛歌へと心を移していこう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「主の降誕 夜半」

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