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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年2月26日 四旬節第1主日 A年 (紫)  
実にアダムは、来るべき方を前もって表す者だったのです(ローマ5・14より)

原罪 
フレスコ画  
スペイン セゴビア マデルエロのベラ・クルス教会 12世紀初め
 
 一見して、きょうの第一朗読箇所である創世記2章7-9節、3章1-7節にちなむアダムとエバの場面とわかる聖堂壁画である。「園の中央に生えている木」(3・3)が真ん中に強くはっきりと描かれている。「善悪の知識の木」(創世記2・17)、「命の木」(3・22,24)とも呼ばれる、その木は、幹も枝の絡み具合が熱帯樹林のような魅惑を漂わせている。誘惑の的となった木についての描写意図であろう。そこには蛇が一体となってまとわりついている。この出来事の叙述のかぎとなる生き物である。
 アダムとエバを見ると、既に「いちじくの葉をつづり合わせ、腰を覆うものとした」(7節)姿で描かれている。ここまでを見ると、創世記に述べられているとおりだが、そこには記されていない様子も描き込まれている。エバが、禁じられた木の実を蛇に食べさせているところ、その光景を見て、アダムが心配そうに自分の喉の辺りをさすっているように見えるところである。実際に蛇に実を食べさせることは、創世記に書かれてはいないのだが、3章1節から7節のあたりの蛇とエバとのやりとり、そこに見られる蛇からのそそのかしに対するエバの好意的な対応といったものが、より強く表現されているように思われる。そして、アダムの喉を手でさするしぐさには、「自分たちが裸であること」(7節)を知ったときの気持ち、朗読箇所の後の部分になるが、「主なる神の顔を避けて、園の木の間に隠れる」(8節)などに示される、人間の罪意識の芽生えが描き込められているのではないかとも感じられる。時間的推移の中で物語られる出来事の姿を一面の場面で描写の絵画というものの特質を思いながら、創世記の叙述を味わっていきたい。
 このあと、主なる神はアダムとエバに訊問したのち、蛇に(14-15節)、エバに(16節)、そしてアダムに(17-19節)にその宿命を与え、そのあと、二人は楽園を追放される(22-24節)。創造された人類が罪に堕ちたこと、人類に宿命的に受け継がれていく原罪の始まりの歴史が大変印象深く語られるところである。
 この四旬節第1主日の第二朗読箇所(ローマ5・12-19)は、第一朗読箇所の内容をしっかりと受けて、冒頭で「一人の人によって罪が世に入り、罪によって死が入り込んだように、死はすべての人に及んだのです」(12節)と告げる。アダムは、ある意味でキリストの到来を予告する存在である。「実にアダムは、来るべき方を前もって表す者だったのです」(14節)と、パウロは、いわゆる旧約の出来事や人物がキリストを前もって示す関係にあったことを考え、聖書を理解する見方(予型論)をもって語っている。アダムとキリストとの関係は「一人の人の不従順によって多くの人が罪人(つみびと)とされたように、一人の従順によって多くの人が正しい者とされるのです」(19節)という対照的な関係にあり、それは、(朗読箇所には入っていないが)このあとの20節において「罪が増したところには、恵みはなおいっそう満ちあふれました」と、罪と恵みの対照的な関係によっても語られる(まさにここが、きょうの第二朗読の主題句でもある)。
 このような二つの朗読によって、キリスト教の救いの歴史に対する全体的な見方が示されるのが、四旬節第一主日A年の特徴である。この壁画に描かれるアダムとエバを見ても、その裸体は、後の時代のような写実的なものではなく、平面的にデフィォルメはされている。それでも、非常によく描き込まれ、ある意味で肉体性の強調がかなり感じられる。このような赤裸々な人間の姿と、真ん中の木の形を眺めるとき、我々は、どうしても、十字架上のキリストの体に思いを向けさせられるのではないか。アダムとエバの中央にある木は、十字架を予告する象徴(予型)となる。十字架は、人類にとって新しい、まことの善悪の知識の木となり、永遠の命の木になるのである。こうして、神による創造と救いの壮大な歴史をこの壁画を通して黙想することができる。蛇が象徴する罪の誘惑の深さも含めてである。それは、イエスに対する悪魔の誘惑の場面を物語る、四旬節第1主日A年の福音朗読箇所(今年はマタイ4・1-11)と結び合わせて読むときにさらに深められるだろう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「四旬節第一主日」

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