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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年4月16日 復活節第2主日(神のいつくしみの主日) A年 (白)  
信じない者ではなく、信じる者になりなさい (ヨハネ20・27より)

復活したイエスと弟子たち
モザイク 
サンタポリナーレ・ヌオヴォ教会 6世紀
 
 復活節第2主日の福音朗読は毎年このヨハネ20章19-31節である。イエスが復活したその日、すなわち週の初めの日の夕方に、復活したイエスが弟子たちの真ん中に来て立ったこと、トマスが疑いを示したこと、そして、その八日の後、つまり次の週の初めの日にまた、イエスが弟子たちの中に現れたこと、そしてトマスと対話したことがその内容である。そのトマスとの対話は心のやりとりが曲折に富み、味わい深い。
 美術でも一般に「トマスの疑い」ないし「トマスの不信」という題で好んで描かれる場面の一つとなっているが、これがキリスト教美術において描かれるようになったのは5世紀以後のことという。このモザイクはその意味で、比較的初期のものにあたる。
 ここでは、イエスの左脇の傷を見つめつつ、右手を広げ、表情にも当惑や疑いを示しているような弟子がトマスであると思われる。ヨハネ福音書のこのエピソードでは、トマスがよく目立っているが、この図ではそれほど目立っているわけではない。イエスの(向かって)すぐ左にいる白髪の男がペトロ。彼のイエスに語り掛けようと右手を掲げながら近づいている姿も目を引き、またイエスの前に身をかがめている弟子も目立つ(ヨハネであろうか)。それに他の弟子たちもそれぞれに表情が微妙に描き分けられていて、モザイク作品でありながら、大変生き生きとした群像図となっている。
 何よりも、弟子たちの集いの中心にいる復活したキリストが非常に大きく、強調されている。背の高さもそうで、頭の後ろの光輪も大きい。その衣においても主としての威厳・尊厳が際立たせられている。イエスが弟子たちの真ん中に立って平和のあいさつをし、傷を見せたというヨハネ20章19-23節の叙述が主要画題で、そこの一部に24節以下のトマスの話が組み込まれていると、見るべきだろう。
 トマスのことばでは「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない」(ヨハネ20・25)と、手の釘の跡とわき腹が問題となっているが、おおむね絵は脇腹の傷跡に焦点を当てる。トマスがそこを見つめているのは、イエスのことば「あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい」(20・27)に対応する。本文では、実際にトマスがそうしたかどうかには言及されていない。トマスの対応で言及されているのは、「わたしの主、わたしの神よ」と言ったことだけで、本文を素直に読むと、この信仰告白が一つの大きな主題であることが感じられる。このエピソードはトマスの疑いや不信どころか、「トマスの信仰」が主題なのである。流れから想像すると、イエスの手を見て、わき腹に手を入れて初めてトマスは信仰告白をしたのだろうとも思われるが、このモザイク作品のトマスは、すでにイエスを仰ぎ、右手を広げているので、「わたしの主よ、わたしの神よ」と告白しているようでもある。
疑いかけている姿がそのまま信じている者の姿に見えてくるところが絶妙である。
 いずれにしても、ここにはだれもが抱きがちな疑いから信仰への劇的な転回が描きとどめられている。このエピソードの結びにあたる「見ないのに信じる人は、幸いである」(20・29)というイエスのことば、イエスと直接出会った弟子以後のすべての世代の信者にとっての祝福の宣言、まさしく福音といえるのではないだろうか。トマスは、現代の人間がイエス・キリストの生涯を前にして、ぶつかるつまずきや疑問、迷いを体現する先駆者である。このような人にも、イエスは信仰へと招く人、導き手として現れてくる。
 福音朗読箇所の前段20章19-23節では、イエスによる聖霊の授与(22節)とキリスト者としての使命の授与(23節「だれの罪でも、あなたがたが赦せば、その罪は赦される」)が示されている。他の書でいえば、聖霊降臨(使徒言行録2・1-11)、弟子たちの派遣(マタイ28・16-20)にも対応する内容が一つに凝縮されている。すなわち、神の民の派遣の始まり、キリスト自身による教会の活動の始まりの出来事である。このことが、ヨハネ福音書では、「週の初めの日」(ヨハネ20・19)、「八日の後」(26節)という時の言及と、弟子たちのいる部屋に「イエスが来て真ん中に立ち」(19、26節)という行為記述の繰り返しを伴っている。ここには、「週の初めの日」すなわち主日ごとに集う信者共同体にキリストが現存すること(『典礼憲章』7参照)の教えがあるとして、キリスト者の典礼生活の核心が描かれていると受け止めることが意義深い。よい黙想のテーマである。日曜日のミサごとに、イエスは来て、我々の真ん中に立たれる。「主は皆さんとともに」はその宣言である。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「復活節第二主日」

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