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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年10月15日 年間第28主日 A年 (緑)  
あなたは、……わたしのために会食を整え (答唱詩編 詩編23・5より)

最後の晩餐
ステンドグラス
パリ サント・シャペル教会 13世紀

 サント・シャペル聖堂は、12世紀半ば、フランス王ルイ9世がパリのシテ島に建てさせた王宮付属礼拝堂である。彼がコンスタンティノポリスでビザンティン皇帝から購入したキリストの「茨の冠」や十字架の断片などを納めるために建設したもので、王宮につながる王族用の上堂と一般用の下堂から成り立っている。上堂には高さ15mに達する窓が15面あり、1,100 余りのキリスト生涯図や旧約物語を描くステンドグラスで飾られている(1245-48年制作)。表紙に掲げたのは、イエスの受難にちなむ一連の場面の中の最後の晩餐を描くものである。
 弟子たちの表情が非常に繊細に描かれているのは驚きである。ユダの裏切りに関する告知の場面と思われる。注目したいのは、イエスが持っている杯である。これは、当時から現在までミサで使うカリスの形に近い。食卓に幾つか見える皿も、ミサで使うパテナ(聖体容器)と考えることができる。
 ところで、最後の晩餐というと我々には、マタイ26章26-30節、マルコ14章22-26節、ルカ22章15-20節、一コリント11・23-25に記される、いわゆる聖体の制定に関する箇所の印象が強い。しかし、意外なことに、中世の写本画やステンドグラス、イコンで描かれるところの最後の晩餐で、このパンとぶどう酒に関する聖体としての制定の場面を主題とするものはきわめて少ない。圧倒的に、最後の晩餐の図では、ヨハネ福音書13章21-30節に基づくユダの裏切りの予告を主題とするものが多い。このステンドグラスの場面でも中央のイエスの(向かって)すぐ左隣に、その愛されていた弟子が描かれている。左端がユダと思われる。右側にいる二人の弟子たちは、この作品の場合、驚きというよりも、ユダの裏切りを確信して見とがめているようである。
 その場面を描く絵を、きょうの福音朗読箇所マタイ22章1-14節(または1-10節)に関連づけて鑑賞するのは、この箇所で、天の国が、ある王が王子のために催す婚宴に譬(たと)えられているからである。この譬えの中で、「婚宴の用意はできているが、招いておいた人々は、ふさわしくなかった」(9節)ということばがまた暗示的である。明らかに天の国に人は招かれているのに、その人々はふさわしくなかった。むしろ、「見かけた者はだれでも婚宴に連れて来なさい」(同)と言われているところに、イエスの神の国(マタイでは「天の国」と呼ばれている)の宣教が普遍的なものに転換を遂げていく状況が語られている。
 そこで婚宴、つまり一つの祝いの宴に譬えられる神の国は、イエスが自らの体と血を食べ物・飲み物とする晩餐と本質的に関連している。そのことを暗示するのが、マタイによる最後の晩餐の叙述にある「言っておくが、わたしの父の国であなたがたと共に新たに飲むその日まで、今後ぶどうの実から作ったものを飲むことは決してあるまい」(マタイ26・29)というイエスのことばである。ここでは、神の国の完成が祝いの宴のイメージで語られている。イエスが定めた晩餐は、教会において、主の晩餐=感謝の祭儀(ミサ)として受け継がれ、それはたえず、神の国の完成、その喜びの宴へと導かれている。
 神の国の完成、救いの完成が祝宴としてイメージされる伝統は、旧約の預言にその源流があることがきょうの第一朗読イザヤ25章6-10a節から示される。シオンの山で、「すべての民に良い肉と古い酒」、「脂肪に富む良い肉とえり抜きの酒」が供される祝宴である(6節参照)。その中で救いの決定的実現がシオンの山で催される祝宴のイメージで語られている。この山(神との決定的な出会いの場)(6節)は、神が「死を永久に滅ぼしてくださる」(8節)ところであり、「救いを祝って喜び躍」(9節参照)るところとなる。このイメージは、今や新約の神の民において受け継がれ、感謝の祭儀を通して、主キリストの終末における再臨の姿として待ち望まれているものである。我々が今、「神の小羊の食卓に招かれた人は幸い」(ミサの式次第の中の拝領への招きのことば)と呼びかけられて受ける聖体は、キリストの導きにより、終末の完成へと導かれている旅の一歩一歩を支える糧である。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第28主日」

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