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聖書と典礼

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『聖書と典礼』表紙絵解説 (『聖書と典礼』編集長 石井祥裕)
2023年11月19日 年間第33主日 A年 (緑)  
僕たちの主人が帰って来て、彼らと清算を始めた (マタイ25・19より)

白馬に乗るキリスト 
壁画 
フランス オセール サンテティエンヌ教会地下聖堂 12世紀初め

 きょうの福音朗読箇所は、マタイ25章14-30節。有名なタラントンの譬えである。筋としては、旅に出ようとする主人から財産をそれぞれにあずかった僕(しもべ)のうち二人は、それをもとに商売して倍稼いだのに対して、僕の一人は、預かったお金をそのまま穴に隠していた。旅行から帰ってきた主人は、初めの二人はほめたが、そのまま隠していた僕は叱られるという話である。ここから、神からの賜物をより生かすことを神は望んでおり、それが信仰者に望まれている“忠実さ”であるという教訓と、受けとめることはできる。
 しかし、この教えは、マタイ福音書では、前の週の福音朗読箇所であった十人のおとめの譬えに続き、終末の主の来臨(キリストの再臨)に向かって、現在をどのように生きるかということへの問いかけとして位置づけられている。「天の国はまた次のようにたとえられる」(マタイ25・14)として、ここで語られる内容が神の国に生きるとはどういうことかの教えであることが暗示される。「ある人が旅行に出かけるとき」(同上)は、キリストが天に上げられることを意味しているともいう。そして旅行から帰ってくるということは、終末の時に、キリストが再び来られることにあたる。いわば、神の国の実現が始まっている地上の世界で、その完成の時におけるキリストとの出会いに向けて、神からいただいたものとともに生きる生き方が問われているのである。
 このような教えに含まれているメッセージを明確に言語化しているのは、第二朗読箇所である一テサロニケ書5章1-6節である。主の日が来ることに向けて、すでに「光の子、昼の子」(5節)とされているキリスト者は、眠ることなく、「目を覚まし、身を慎んでいましょう」(6節)と告げられる。主の日は、暗闇のものではなく、「盗人のように突然あなたがたを襲うことはない」(4節)というメッセージも重要である。ここでの暗闇とか眠りとかは、神に心を閉ざしている態度の暗示であり、主の日を信じている者、キリストを信じる者は、すでに「光の子」であり、キリストの来臨の恵みが約束され、そこへと力強く招かれている。したがって、この約束を受けている者として生きることは、おのずと「目を覚まし、身を慎んでいましょう」との呼びかけが求めるものとなっていく。眠い目をこすって必死で目を覚ましているという態度とはほど遠いだろう。主の姿をいつも心に抱き、その来臨をひたすら待ち望む態度、そして、そこに向けて自分が関係していることを全力でアレンジしていくような行動的な態度こそがタラントンのたとえの求める信者の生き方であろう。
 そういう意味で、再び来られることを約束された主キリストを心に思い浮かべるヒントとして、白馬に乗る姿として描く表紙絵の壁画に注目してみたい。白馬に乗るという点がユニークである。
 人間にとって親しい動物である馬は、聖書においては、ネガティブに語られる面がある。「主は馬の勇ましさを喜ばれるのでもなく、人の足の速さを望まれるのでもない。主が望まれるのは主を畏れる人、主の慈しみを待ち望む人」(詩編147・10-11)、エルサレムの堕落を叱責する神のことばをつげるエレミヤ書では、「彼らは、情欲に燃える太った馬のように隣人の妻を慕っていななく」(エレミヤ5・8)などである。他方で、神の使いの役割で馬が言及されるところもある。エリヤは火の馬に引かれる火の戦車によって天に上げられる(列王記下2・11参照)。預言者ゼカリヤが見た幻の中の馬は主の使いであった(ゼカリヤ1・8-10、6・6参照)。
 とりわけ、白馬は、古代社会全般に高貴なものとされ、王や皇帝など主権者の象徴となっていく。黙示録において主の来臨が白馬に乗って現れてくるというビジョンが語られている。「そして、わたしは天が開かれているのを見た。すると、見よ、白い馬が現れた。それに乗っている方は、『誠実』および『真実』と呼ばれて、正義をもって裁き、また戦われる」(黙示録19・11)、「この方の衣と腿のあたりには、『王の王、主の主』という名が記されていた」(同19・16)。この表紙絵に描かれるのはまさしく終わりの時に到来する主イエス・キリストであり、その主権の比類ない尊厳を強調するのが白馬であることがわかる。もちろん、ここに、旅行から帰ってきた主人をイメージしてもよい。きょうの譬えとも興味深く響き合う連想となろう。

 きょうの福音箇所をさらに深めるために

和田幹男 著『主日の聖書を読む(A年)●典礼暦に沿って』「年間第33主日」

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